価格はマーケティング・プロセスの中で、唯一利益の創出を決定づけるものです(製品、チャネル、プロモーションでは、市場規模の把握や投資・コストの決定しかできません)。
そのため、値決めは企業業績に非常に大きなインパクトを与える要素になってきます。
また、価格の変動は、コストの変動に比べると経営に大きな影響があります。
大前研一氏も講演の中で、以下のように価格の重要性について述べています。
企業として最も集中することは価格である。日本企業はコストを下げて売上を伸ばすことが染色体として染み付いている。しかし、価格を1%上げることで日本企業は23%収益が上がる。だから、価格を1%上げることに命がけでやる価値がある。
この記事では、その「価格戦略」について解説していきます。
価格決定の際に考える3つのポイント
価格の決定においては、3C(市場、競合、自社)の視点で考えるとうまく整理できます。
■市場
- 誰が顧客なのか?潜在的な顧客は誰か?
- 市場は成長しているのか?縮小しているのか?
- 顧客はその製品やサービスを誰から買うのか?なぜ買うのか?
■競合
- 競合は誰か?その競合は何を提供しているのか?自社とどう違うのか?
- コスト構造はどうなっているのか?
■自社
- 何が変動費で、何が固定費か?その割合は?今後変化するのか?
価格の上下限
健全な競争が行われている製品やサービスだと、価格の下限は製造コスト(自社の視点)になり、価格の上限はカスタマーバリューの最大値(顧客の視点)になります。
そして、その間に市場で競合によって形成されている価格(競合の視点)が存在します。
詳細を以下に説明します。
市場の視点 カスタマーバリューでの価格設定
カスタマーバリューの最大値で価格設定できれば、企業にとって最も利益があがることになります。
ただし、カスタマーバリューを顧客にしっかり伝えるプロモーションが必要になります。
知覚価値価格設定
事前のリサーチにより「売れる価格帯」を発見し、予め価格を決めておき、それに見合う原価で商品を提供する方法です。
知覚価値価格設定をするケース
- 今まで市場に導入されたことのない新しい製品やサービス
- コストに比べて価値を大きく見せられる製品やサービス
価格のリサーチ方法のひとつに以下のPSM分析があります。
需要価格設定
顧客層や時間帯、季節、場所などの需要動向によって価格を変化させる方法です。
需要価格設定をするケース
- 飛行機の運賃や野球場のシートにおける座席グレード
- 繁忙期と閑散期で価格を変えるホテルの部屋
顧客の経済価値から見た価格設定
商品やサービスの価格を設定する上で、顧客がその製品やサービスを使うことによって得られる経済的価値を分析することも有効です。
たとえば、ベンチマーク商品に対して、以下の要素が販売価格に影響する要素として考えられます。
- 顧客の商品の販売増(販売価格に上乗せ可能)
- 顧客の商品の価格上昇(販売価格に上乗せ可能)
- 顧客のコスト削減(販売価格に上乗せ可能)
- 顧客の切替コスト(販売価格からマイナスする必要あり)
上記の内容をグラフにすると、以下のようになります。
この経済価値を正しく分析し、顧客に正しく伝えることができれば、自社の価格を最大化することができます。
それぞれの項目に関しては、以下のような論点が考えられます。
■顧客の販売増の検証
- 新規市場への参入は可能か?
- 既存市場での売上増につながるか?
■顧客の価格上昇の検証
- 顧客の顧客が高く買う魅力があるか?
■顧客のコスト削減の検証
- 製造効率が上がるか?材料費を下がるか?
- メンテナンスコストが下がるか?物流コストは下がるか?
競合の視点 競争志向での価格設定
実勢価格設定
競合の価格を考慮に入れて価格水準を決定する方法です。
多くの業界で採用されている方法です。
実勢価格設定をするケース
- 家電量販店で販売される家電商品
- スーパーやドラッグストアで売られる日用品や食料品
入札
入札によって価格を決める方法です。
買い手は、入札により一番低い価格を設定した売り手と取引することになります。
入札をするケース
- 公共事業
自社の視点 製造コストベースでの価格設定
製造コストをベースにした価格設定は、利益を出しやすいという利点がありますが、顧客が払ってもいいと思っていた価格より低い価格設定になって、利益を取り逃がすリスクがあります。
また、まれに「客寄せ」や「単位製品あたりの固定費削減」など理由で、製造コストより低い価格設定をする場合があります。
コストプラス価格設定
実際にかかったコストに一定額の利益を上乗せして価格を設定する方法です。
価格 = コスト + (定額の利益)
コストプラス価格設定をするケース
原価と付加価値に一定の相関が見られる商品(家電商品や自動車など)
マークアップ価格設定
仕入原価に一定の率をかけて価格を設定する方法です。流通業でよく用いられるな価格設定です。
価格 = コスト ✕ (マークアップ)
マークアップ価格設定をするケース
原価と付加価値に一定の相関が見られる商品(家電商品や自動車など)
ターゲット価格設定
目標原価を定めて、その目標原価において利幅を取れるように価格設定をする方法です。
価格 = ターゲットコスト + (利益)
ターゲット価格設定をするケース
工場の稼働率が重要となるビジネス(装置産業など)
価格範囲を決める要素
選択できる価格の範囲は、その製品やサービスの顧客にとっての価値の大きさと、競争の激しさによりある程度決められてきます。
その関係を表したのが以下のグラフです。
グラフ左下
競争が緩やかで、価値の低いものは、製品の導入時期によく見られる傾向でさまざまな価格帯の商品が存在することになります
グラフ左上
そしてその状態で価値が高まってくると、顧客の関心が高まり、ある程度価格帯が集約されてきます
グラフ右下
競争環境が激しくなり、ある程度普及してしまい、顧客にとっての価値があまり高くなくなってしまった商品は、価格競争に陥り価格範囲が極めて狭くなってしまいます。
グラフ右上
競争が激しくなっても、以前として価値の高いものは、価格帯別数量がきれい分布せずに、いびつな形になってきます。このときは、往々にして、その商品カテゴリーにコスト重視のプレーヤーと、差別化により高い価格をとるプレーヤーが存在しています。
価格と売上の相関 3つの分類
価格と売上には商品特性によって異なる特徴があります。以下が代表的な3つの分類です。
■価格が高いと売れるもの
高級ブランドや絵画、彫刻などの芸術品、高級化粧品などが当てはまります。
もし、高級ブランド商品の価格が下がったら、その魅力は一気に半減するでしょう。
■値ごろ感の価格で売れるもの
今まで11万円だったものが9.8万円になった瞬間普及が始まるなど、顧客にとって値ごろ感を出すと急激に売れ始めるものがあります。
こうした商品は、顧客が値ごろと感じる価格を掴み、その価格が成り立つコストで物を作るということが重要になります。
■安ければ安いほど売れるもの
ブランドに左右されにくい日用品はこの類のものです。
まとめ
以上、価格戦略の基本でした。
- 価格を決める際に考える視点は3つ。顧客の視点(カスタマーバリュー)、競合の視点(実勢価格)、自社の視点(コスト)。一般的に価格は実勢価格を参考にして、カスタマーバリューとコストの間で決められる。
- 顧客視点の価格設定には、知覚価値価格設定と、需要価格設定がある。また、顧客の経済価値から見た価格設定も可能である。
- 競合視点の価格設定には、実勢価格と入札がある。
- 自社視点の価格設定には、コストプラス価格設定、マークアップ価格設定、ターゲット価格設定がある。
- 価格を決める範囲は、顧客が認識している価値の高さと、競争の激しさによって規定される。
マーケティング理論についてもっと知るには