サブスクリプションというと、継続課金モデルと答える人も多いと思います。
たしかに、その答えは一般的には合っているのでしょう。
しかし、「サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」によると、サブスクリプションを単なる継続課金モデルと考えると誤った解釈になるとしています。
この記事では、本書を引用しながら、価格戦略の1つであるサブスクリプションについて書いていきます。
サブスクリプションとは
サブスクリプションとは、一般的には月額課金などの継続課金制のことで、モノを買うことにお金を払ってもらうのではなく、使った分に対してお金を払ってもらうモデルです。
英語で書くとSubscriptionとなり、本来の意味は新聞や雑誌の定期購読を表す言葉です。
Youtubeのチャンネル登録をしたり、ブログの読者になったりすることもサブスクライブ(Subscribe)と表現します。
近年では、それが継続課金制のビジネスモデルに転じて頻繁に使われるようになり、サブスクリプションモデルとか、サブスクリプション型ビジネスなどと言われるようになってきています。
サブスクリプションの典型例が、ソフトウェアです。
昔のソフトウェアは、売り切り型のものがほとんどでした。
たとえば、マイクロソフトのオフィスというパッケージを買うとそのパッケージに対してお金を払い、自分のパソコンにインストールできるようになるというモデルでした。
ところが、今ではマイクロソフトは、Office365という商品を提供していて、月額や年契約で課金をしてソフトウェアを使用するモデルになっています。
私も自分の会社でメールや共有ドライブのインフラとしてOffice365を活用していますが、使っている限りずっと課金されるビジネスモデルです。
サブスクリプションモデルの発展
サブスクリプションモデルはインターネットの発展に合わせて発展してきました。
従来だと継続課金の処理をする際に顧客に大きな負担を強いていたのですが、インターネット決済が発達したことで非常に簡単に課金をできるようになってきました。
このようなインフラの発展に加えて、ユーザーがモノを買うことから、コトを買うことに重きを置くようになってきたこともあって、この10年くらいの間にサブスクリプションモデルが大きく発展してきています。
本記事の最後に紹介する書籍「サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」にも
サブスクリプションというビジネスモデルが私の行動を変えている
とした上で、以下のように書かれています。
私たちは、企業がサービスをカスタマイズして必要なときにすぐ届けてくれるのを、当然のことのように思い始めている。生活のある領域で利便性と満足感を得ると、他の領域にも同じことを期待するようになる。
単なる継続課金制ではないサブスクリプションの本質
先ほど、サブスクリプションのことを一般的には継続課金制のことと書きましたが、本質的には単なる継続課金制ではないとされています。
先ほど紹介した「サブスクリプション「顧客の成功」が収益を生む新時代のビジネスモデル」によると、サブスクリプションのことを、顧客と良好な関係を構築しながら、長期的に収益を得られる仕組みにしていくことと捉えています。
つまり、継続課金制のビジネスでなくても、広義の意味でサブスクリプションモデルにすることは可能だということです。
たとえば、リッツ・カールトンや、スターバックスなど、顧客のロイヤリティが高いビジネスだと、1回あたりのサービスは売り切り型でも、同じ顧客が継続してサービスに対価を支払うようになります。
では、既存の商品売り切り型のビジネスをしている会社が、簡単にサブスクリプションに移行できるかと言うと、そうでもないとしています。
むしろ、売り切り型モデルの収益減少をサブスクリプションで焦って補おうとすると、好ましくない結果を招くとも書かれています。
なぜなら、本質的なサブスクリプションを実現するには、顧客との間で良好な関係を築くのに時間とお金がかかるからだとしています。
それを表したのが、以下のフィッシュモデルです。
※「サブスクリプション」を参考に作成
フィッシュモデルは、既存の売り切り型のビジネスモデルをサブスクリプションモデルに転換していくときにかかるコストと収益の関係を示しています。
このグラフから、移行当初は移行が進むほど収益が落ち込む一方でコストは増大し、移行の終盤になると顧客との関係が構築されて、少ないコストでより大きな収益をあげられると読み取ることができます。
この時間経過と顧客との関係性については、「Think!別冊 DXの真髄に迫る―デジタル変革を前進させるベイカレント流7つのポイント」でも述べられています。
以下のグラフは、単なる継続課金制ビジネスと、広義の意味でのサブスクリプションモデルとの違いを経過時間と顧客体験の関係で表したものです。
※「Think!別冊 DXの真髄に迫る―デジタル変革を前進させるベイカレント流7つのポイント」を参考に作成
このように、サブスクリプションを単に継続課金モデルと考えるのではなく、顧客体験とセットでデザインすることがサブスクリプション移行を成功させるために重要だと考えられているのです。
サブスクリプションモデルの例
サブスクリプションモデルの事例をいくつか紹介します。
Saasモデル
サブスクリプションの代表例がSaasです。
SaaSとは、Software as a Serviceの略で、必要なときに必要な機能だけ利用できるというソフトウェアの提供方法を示します。SaaSのことをサースと発音します。
SaaSはサブスクリプションモデルと親和性が高い組み合わせになります。
先ほどあげたOffice365は、SaaSの代表例です。
サービスの組み合わせを自由にカスタマイズできるわけではないものの、3つのサービス・パッケージを用意しているので顧客の用途にあわせて選択できるようになっています。
ゼロックス
少し古い例だと、ゼロックスのコピー機もサブスクリプションの先駆けでした。
コピー機を販売して利益を得るのではないく、コピーの回数で課金管理しながら、用紙やトナーの補充、メンテナンスなどをする仕組みです。
OYO
2019年2月20日にインドのOYOがスマホで手軽に賃貸物件を貸し出すサービスを日本でも展開するというニュースがありましたが、これもサブスクリプションモデルのひとつです。
インド発のユニコーン企業OYO(オヨ)、ヤフーと合弁会社を設立し日本の賃貸住宅事業に本格参入
そもそも賃貸物件自体がサブスクリプションモデルではあるですが、OYOは契約と解約の利便性を大幅に高める取り組みをしています。
アマゾン
アマゾンも、インターネットを通じてモノを売る会社でしたが、配送料を無料にするアマゾンプライムでサブスクリプションモデルをスタートしました。
今ではキンドルアンリミテッド、オーディブル、ビデオ等、月額制のコンテンツ配信にも力を入れています。
さらには、IoTを活用したウォーターサーバーや、歯ブラシの自動発注モデル(Amazon Dash Replenishment)にも取り組んでいます。
IoTを活用したハブラシGUM PLAYの詳細はこちらです
サブスクリプションモデルのポイント
先ほども書いたようにサブスクリプションモデルにとって大事なことは、顧客体験を向上させ良好な関係を維持することです。
その中で、最も避けるべきことは、顧客がサービスを解約してしまうことです。
この解約率のことをチャーンレート(Churn Rate)と言いますが、優れたサービスを提供しなければ、このチャーンレートが上がっていってしまうのです。
こうしたことを踏まえて、サブスクリプションモデルをうまくいかせるためのポイントは大きく3つあります。
ポイント1:顧客とのリレーションシップ
チャーンレートを低く保つためには、顧客とのリレーションシップを良好に保っておくことがポイントになります。
特に顧客の声を直接拾い上げることが何より重要になってきます。
ポイント2:顧客ニーズに合わせたサービスのアップデート
サービスを常にアップデートすることも大事です。
コンテンツ配信型のモデルであれば、当然コンテンツを生み出し続ける必要がありますし、Office365のような顧客が使用するものであれば、ユーザーの使用体験を絶え間なく改善していく必要があるでしょう。
それが途切れると、ユーザーは支払いをやめて、他のサービスに乗り換えてしまうかもしれません。
ポイント3:柔軟な料金プランの提示
顧客に対してゼロイチの選択肢だと、境界線の部分のニーズを捉えることが難しくなります。
先ほどのOffice365ほどカスタマイズ可能ではなくても、複数のプランを提示するということで、潜在ユーザーの取りこぼしを減らすことができるでしょう。
一度使ってみたユーザーに対してサービスをダウングレードして使い続けるという選択肢を与えることにもなります。
また、1ヶ月の無料体験などユーザーに無料体験を提供することで、囲い込んでいくという方法もあります。
これはユーザーにサービスを体験してからお金を支払うかどうかを選んでもらうという点で、柔軟な料金プランの提示のひとつだといえるでしょう。
ハードウェアでのサブスクリプション
潜在的にはハードウェアに対するサブスクリプションモデルのニーズは高いはずですが、先ほどのフィッシュモデルにもあるように、売り切り型のビジネスをサブスクリプションモデルに移行していくのは簡単ではありません。
また、そもそも多大な初期投資が必要なハードウェアで継続課金制にしてしまうと、投資回収に時間がかかりすぎてしまうという課題もあります。
むしろ、以下の記事では、販売数量や工場稼働率にとらわれるとうまくいかないとまで言われています。
製造業で、たとえば販売数量にとらわれ過ぎると、イノベーションのジレンマに陥るかもしれませんね。
テレビなどの家電でサブスクに移行しようとする企業がありますが、販売数量や工場稼働率など、そういったことにとらわれてしまうとうまくいきません。
その中で、ミシュランの「マイレージ・チャージプログラム」のようなタイヤの継続課金制や、ゼロックスのようなコピーという行為に対して課金するモデルがB2Bでは存在しています。
一方B2Cでは、ハードウェアとセットでコト・体験を販売して、体験へのサービスに対してサブスクリプションモデルで課金するという複合技を繰り出している会社があります。
その会社が、創業6年で時価総額4000億円超を達成したPeloton(ペロトン)です。
家庭用トレーニングバイクを2,000ドルで販売する。バイクには動画モニターが搭載されており、ニューヨークからリアルタイムで発信されるジムセッションを受けながら体を鍛えられる。同じクラスを受けているユーザーの運動量データをみながらトレーニングできるため、ゲーミフィケーション要素も入っている。
(中略)
収益モデルは本体セット販売のみではなく、動画コンテンツの月額サブスクリプション収入39ドルで継続収入を得る仕組み。
(参考)ペロトンのCM
まさに先ほど書いた顧客体験をセットでデザインしている好例と言えるでしょう。
まとめ
以上、サブスクリプションの解説でした。
- サブスクリプションとは、狭義の意味では月額課金制などの継続課金モデルのことを示す。
- インターネットを通じた代金決済方法の進化がサブスクリプション進化の後押しとなった。
- 「サブスクリプション」によると、サブスクリプションは広義の意味では、顧客との良好な関係を構築して、継続的に購買行動をとってもらうことで、単に月額課金制だけを示すものではない。
- サブスクリプションの事例として、近年だとSaasビジネス、昔だとゼロックスなどが挙げられる。
- サブスクリプションを成功させるには、顧客とのリレーションシップ構築、ニーズに合わせたサービスのアップデート、柔軟な料金プランの提示が鍵となる。
- ハードウェアの売り切り型をサブスクリプションに移行するハードルはさらに高いが、B2Bだとミシュランやゼロックスのような成功事例ある。B2Cだと顧客体験を事業スタート当初からデザインしたペロトンが、サブスクリプションの成功事例になっている。
本記事で参考にした本