経営の意思決定をするときの方式・スタイルとして、トップダウンとボトムアップがあります。
巷では、
「あの会社はトップダウンで物事が決まるから」
「うちはボトムアップが基本だからなあ」
などのように使われる言葉です。
では、このトップダウンやボトムアップのメリット・デメリットは?
このように聞かれると、即答できる人も少ないのではないでしょうか。
私は10年以上サラリーマンをやってきた中でトップダウンとボトムアップ両方の風土の中で仕事をしてきたので、どちらも身に染みてわかっています。
この記事では、組織・人材マネジメントを考える上でのトップダウンとボトムアップについて、メリット・デメリット、どういう場面においてどちらのスタイルが適切なのかを私の経験に基づいて解説していきます。
トップダウン・ボトムアップとは
トップダウンとは、組織の上層部にいる人間が意思決定を下して現場に実行させるスタイルです。よくトップダウンスタイルのことを軍隊式と表現する人もいますが、まさに軍隊のように上層部の命令に現場が従うという意思決定スタイルがトップダウンになります。
一方で、ボトムアップとは、組織の下層の人間が計画を起案して、上層の人間に意思決定してもらうスタイルです。上層部が最終の意思決定をするものの、下層の人間がある程度裁量を持って計画を立てて実行できる点がトップダウンとの大きな違いです。
トップダウンのメリット・デメリット・適切な場面
最初にトップダウンのメリット・デメリットについて解説します。
トップダウンのメリット
トップダウンのメリットとして次のようなものがあげられます。
- 経営の意思決定が早い
- 会社向かう方向を統一しやすい
トップダウンの場合、会社経営の全責任を負う経営者または上層部の経営陣が主導で方向性を決めるので、スピーディーに意思決定ができます。特に経営者が現場のことを熟知していて、1を聞いて10を理解できるようなタイプなら、時間のかかるプレゼン準備などなくとも次々に意思決定していきます。
また、経営陣が決めた会社の向かう方向から外れたことをしなくなるので、会社全体として向かう方向を統一することができます。
トップダウンのデメリット
トップダウンのデメリットには次のようなものがあります。
- 経営陣の間違いが業績に直結する
- 社員が経営陣の顔色を伺うようになる
- 部下が育ちにくくなる
- 扱う案件が多くなるとかえってスピードが遅くなる
トップダウンスタイルだと、現場は経営陣の言う通り動くので、経営陣が意思決定を間違えたときにそのまま猛烈な勢いで間違った方向に突き進んでしまうことがあります。
また、部下は経営陣の指示を見て動くので、経営陣の顔色を伺いながら仕事をするようになります。そして、指示がないと動かない文化も形成されやすいので、部下が指示待ちになって育ちにくくなるケースもあります。
加えて、トップの意思決定だけで会社が運営されるので、会社として扱うべき案件が増えてきたときにトップのキャパが足りなくなり、意思決定のスピードがかえって遅くなってしまうこともあります。
トップダウンに適した局面
トップダウンが適切なのは次のような局面です。
- 創業間もない状況でトップのリーダーシップが必要なとき
- 会社の危機や大きな方向転換でトップのリーダーシップが必要なとき
トップダウンは良くも悪くも経営者、経営陣の能力に依存するところがあります。したがって、経営陣の経営能力が高く現場のことを深く理解してるとうまくいくケースが多いです。
特にこの傾向は創業社長の会社に顕著です。創業社長は自分で一から現場を作り上げてきているので、現場の動向を隅々まで理解できた上で意思決定をするので、間違えるケースが少ないです。
また、仮に間違えても、速やかに撤退する意思決定ができる経営陣であることも要求されます。
オーナー企業(会社のトップが一定の支配権も持っている会社)はトップダウン文化が根強いと言われています。
ボトムアップのメリット・デメリット・適切な場面
次にボトムアップのメリット・デメリットについて解説します。
ボトムアップのメリット
ボトムアップのメリットとして次のようなものがあげられます。
- 現場の意見を意思決定に反映しやすい
- 自発的に行動できる社員が育ちやすい
ボトムアップスタイルだと、現場の社員が方向性を起案します。そうすると、必然的に現場の状況を反映された意見になります。
また、現場の社員が自分たちで積極的に動いて、起案して進めていかないと何も進まないので、自発的に考えて行動できる社員が育ちやすい風土ができます。
ボトムアップのデメリット
ボトムアップのデメリットには次のようなものがあります。
- 根回しが多くなり意思決定のスピードが遅くなる
- 優秀な下を育てないと組織が機能不全に陥る
- 会社全体視点を持った提案が出にくくなる
- 環境変化に弱くなる
ボトムアップと言えども、意思決定をするのは経営陣ですし、何かを起案して実行する際に、起案者の権限が及ばない関連部門に協力を取り付けながら進める必要があります。
こうなると、事前の根回しに要する時間もかかり、結果として意思決定に至るまでのスピードが遅くなります。
また、ボトムアップの場合、優秀な下部層または中間層の人材が育たないと、会社として機能不全に陥ってしまいます。特に会社全体の視点で物事を考えられる人材を育成する必要があり、そうでないとボトムから上がってくる提案が、部分最適のものばかりになってしまいます。
加えて、環境変化に弱いというデメリットがあります。会社が経営の方針転換を必要とするときに、ボトムアップスタイルだと力を持っている中間層の抵抗が強くなり、根回しにも時間がかかります。結果として、環境変化に対して必要な体質転換ができなくなるという事態に陥ってしまいます。
ボトムアップに適した局面
ボトムアップが適切なのは次のような局面です。
- 会社が成長局面に入るにあたって、トップの意思決定に頼ると成長のボトルネックになってしまうとき
- 次期経営人材を若い段階から育成したいとき
会社が成長局面に入ると、会社の中で扱うべき課題が多くなってきます。そうなると、トップダウンのところにも書いたようにトップのキャパシティが成長のボトルネックになってきます。
このような状況に陥る前に、中間層や下部層に権限を委譲して、ボトムアップで物事を進められるような体制にしていく必要があります。
また、創業期の会社がトップダウンを長く続けると次期経営人材が育ちにくいので、経営人材の育成を見据えたときにボトムアップスタイルに移行していくケースが多いです。
ボトムアップが機能していない例
世の中には、「うちの会社はボトムアップ文化だから」と言いながら、実質そうなっていない例もあります。
それを表現したのが、こちらのツイートです。
ボトムアップと言われながら提案を出すと社内の評論家達に滅多斬りにされて、次第に提案を出さなくなるか、顔色を伺いながら意思決定者の意に沿いそうな提案をするようになっていく。こういう例をいくつか目撃してきました。 https://t.co/DhBmaaorwX
— セーシン (@n_spirit2004) March 21, 2019
ボトムアップと言われながら提案を出すと社内の評論家達に滅多斬りにされて、次第に提案を出さなくなるか、顔色を伺いながら意思決定者の意に沿いそうな提案をするようになっていく。こういう例をいくつか目撃してきました。
私のこのツイートに対しては、いくつか反応がありました。決して、少ない例ではないようです。
日本って、プレゼンターへの配慮する習慣がまだまだですよね。
アメリカのプレゼン聞いてる人達ってなんであんなに反応してるかっていうと、自分がパブリックスピーチしたことある人ばっかりで、無音な中プレゼンする程しんどい事無いって知ってるから。
もうちょい、プレゼンターへ愛が欲しい。 https://t.co/RJI344hTqU
— 小林基樹@管理会計 (@BCsuginami) March 21, 2019
日本って、プレゼンターへの配慮する習慣がまだまだですよね。
アメリカのプレゼン聞いてる人達ってなんであんなに反応してるかっていうと、自分がパブリックスピーチしたことある人ばっかりで、無音な中プレゼンする程しんどい事無いって知ってるから。
もうちょい、プレゼンターへ愛が欲しい。
ここからもわかるように、ボトムアップ文化を醸成するためには上位者がボトムからの提案を受け止めて、建設的な議論をしながら提案者を導いていく姿勢が重要になってきます。
上に書いたように、優秀な社員がいないとボトムアップというのは機能しませんが、このように社員を潰すような言動が起こると、ボトムアップとは名ばかりの顔色伺い文化ができてしまうので要注意です。
よくあるスタイルの変化
創業期の会社はトップダウンで意思決定がされていきます。そこから会社の成長期になるに従って、ボトムアップ文化を醸成するようにしていきます。
特に事業に関わる人数が多くなる会社や、現場の出来が顧客に提供する製品やサービスの品質に大きな影響を及ぼす会社では、創業後の早い段階からボトムアップに移行していくことがあります。
日本の製造業は現場主義が根ざしていて、創業間もない頃からボトムアップの文化が醸成されてきたところがあります。したがって、製造業の多くは現場からのボトムアップスタイルの経営をしています。
一方で、オーナーが長く経営をしている会社や、欧米企業は大企業になった後もトップダウンの文化色濃く残った会社になることが多いです。
オーナー系の会社の場合は単純に、自分で立ち上げた会社なので自分でコントロールしたいという欲求が強い場合も多いです。
欧米系企業のトップダウンは、契約外の仕事は基本的にやらないという働き方に起因しているところがあります。基本的に仕事は上から言われたことをやるというスタイルが染み付いているので、ベンチャー企業やサービス業以外はトップダウンスタイルは強いです。
ただし、自分の任されている仕事の領域については、トップダウンで下りてきた命令であっても、意見をしたり、反論をしたりすることもあるので、日本のトップダウンのように言われたことをそのままというものとは少し異なるのが特徴です。
自分の権利を主張するという、いかにも欧米らしいスタイルだと思います。
優劣はないので場面に応じて使い分ける
トップダウンとボトムアップには優劣はありません。
したがって、メリット・デメリットを知って適切にマネジメントをするしかありません。
実際、以下のように、どちらのスタイルにしてもマネジメントの姿勢が重要だという記述もあります。
トップダウン・ボトムアップのいずれにしても、トップがやらねばならないことがあります。組織の目的を示し、その目的に説得力を持たせることです。
それも、ただ一度示しただけでは不十分。現場から常に見られていることを意識して、ビジョンを伝え続けることが大切なのです。
トップダウン・ボトムアップの違いは、その伝え方がよりカリスマによるものか、コミュニケーションによるものかの違いであるという見方もできるでしょう。
In Circleより引用
私の考えとしては、リーダーシップの4つのスタイルにも似ていますが、場面場面に応じて適切に使い分けるというのも一案だと思っています。
たとえば、普段はトップダウンで意思決定しているが、ある案件については中間層に任せてみるという方法です。また、会社はボトムアップ文化だが、あるプロジェクトだけはプロジェクトリーダーに権限を与えてトップダウン的にマネジメントさせるという方法です。
重要なことは、経営陣やリーダーが格スタイルのメリット・デメリットを把握して、会社が一つのスタイルで硬直してしまうことを防ぎ、場面に応じて柔軟に変えていくようにすることです。
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