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問いかけの力【書評・要約】未来予測に意味はない

本日は、おすすめのビジネス書の中から一冊を紹介します。

0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力です。

本書によると、イノベーションに起こすのに必要なことは、「未来を自らの手で創る」姿勢だとしています。

「未来を予測」するのではなく、「自らの手で創る」ほうが確実です。

(中略)

エイブラハム・リンカーンや、ピーター・ドラッガーも「The best way to predict future is to create it」(未来を予測する最善の方法は、それを自ら創ってしまうことだ)と残しています。

0→1の発想を生み出す「問いかけ」の力より引用

では、その未来を創るために必要なことは何か?

それが本書のテーマとなっている問いかけの力です。

この記事では、書評も交えて、問いかけの力を高めるために感じたことをまとめていきます。

「問いかけ」の力 著者のプロフィール

著者の野々村氏は、トヨタ自動車、ハーバードビジネススクール卒業というトップエリートで、2019年9月現在はデザインコンサルティング会社「IDEO(アイディオ)」に勤務しています。

本書を読む限りでは、私費でのハーバードビジネススクール留学から、IDEO勤務までの経験が、この本を書くための原体験となっているようです。

東京大学では、以下のような基調講演などもされています。

「問いかけ」の力で印象に残ったポイント

本書を読んで印象に残ったポイントを4つあげます。

イノベーティブな人材は「問いかけ」の力を持っている

イノベーティブであると知られているリーダーには、次の5つの行動特性があるそうです。

  • 関連付け(Associating)
  • 問いかけ(Questioning)
  • 観察(Observing)
  • ネットワーキング(Networking)
  • 実験(Experimenting)

そして、問いかけ以外の残りの4つの行動特性が強く出る人は、さまざまなことに疑問を持って問いかける行動特性があるそうです。

裏を返すと、以下のような問いかけを抑制するマインドが少ない人でもあるとしています。

  • 馬鹿だと思われたくない
  • 協調性がない、挑戦的だと他者から思われたくない

これは大企業勤務が長かった私にも思い当たる部分が大いにあります。

会議などで、今までの議論を一旦脇に置いて、「そもそも論」を話す人は、敬遠されがちです。

ましてや、それがあまりにも本質的な部分を突いた指摘だと、その質問自体をなかったことにしようとする力も働きます。

私が若いときに運営していた会議で、こうした「そもそも論」の質問の扱いに困って上司に相談したところ、「議事録からも消しておくか」と言われたこともあります。

会議の参加者も、(最初はそうでなかったとしても、次第に)こうした空気に支配されていることがわかっているので、次第に馬鹿と思われること、協調性がないと思われることを努めて避けようという雰囲気になってしまいます。

おそらく、多くの日本人が経験したことのある空気だと思います。

「問いかけ」の中には人を入れる

これは、問いかけの方法論が書かれた部分で出てきたものです。

「なんでターゲット層はうちのサービスを使わないのか」

「なぜヒット商品を生み出せないのか」

これらもたしかに”問い”ではありますが、あまり創造的な問いとはいえません。

では、どうするのか?「私たち」という人を入れて考えるという提唱です。

「どうすれば首都圏で◯◯に困っている人たちに私たちのサービスをいつでももっと便利に使ってもらえるだろう」

たしかにこうすると、より未来志向の問いかけになりますし、なによりも問いかけ自体に主体性や能動性が出てきます。

多くの会社では、前者のようなどちらかというと他者依存・受動性の高い問いかけをしてしまているのではないでしょうか。

私自身も、過去前者のような問いかけをしては、解決策を生み出せなかった過去があるので、後者のような方法は目からウロコの考え方でした。

不確実な状況を楽しむ

発想の振れ幅の少ない問いかけだとイノベーティブな解決策になりにくく、逆に発想の振れ幅の大きい問いかけをすると、未来の不確実性に向き合う時間が増える。

問いかけの力を養うには、そんな不確実な状況を楽しむことが大事だとしています。

一方で、不確実な状況を楽しむことと対局にあるのが、前例を見て、落とし所を探るという態度だそうです。

これも多くの日本企業でやられていることではないでしょうか。

私も落とし所ありきの会議や、前例至上主義に何度も遭遇してきましたが、こういう態度からイノベーティブな発想が生まれたことは皆無でした。

イノベーティブなこと自体、過去を否定する類のものなので、前例を踏襲すればイノベーティブにならないのは当然と言えば当然なのですが。

プロトタイプを作ってみる

最後にあげたいポイントが、問いかけから生まれたアイデアをプロトタイプにすることです。

私もプロトタイプを作りながら事業を作っているので、プロトタイプの重要性は本当によくわかります。

製品やサービスの価値は、顧客との接点で生まれるのですが、その接点を早い段階で作れるプロトタイプからは多くの示唆が得られたからです。

そうなると、同じ会議室で議論するにしても、パワーポイントのプレゼンテーションではなく、プロトタイプベースがよいでしょうし、会議室での議論よりも顧客(ポテンシャルユーザー)に直接聞くほうが、より有用なものになるでしょう。

ベンチャーの世界ではMVP(Minimal Viable Product)といって、いきなり手の込んだ完成品を作るのではなく、仮説が検証できる最低限のプロトタイプを作ります。

そのMVPを顧客に実際に使ってもらって、課題解決の肝の部分や、それに付随する問題点を発見し、修正を加えていきお金をかけずに商品を作り込んでいきます。

ここでいうプロトタイプ・MVPというのは、きちんとしたものでなくても、仮説検証ができればマンガ、紙芝居、粘土細工でも問題ないのです。

「問いかけ」の力を高めるためにはやるべきこと

では、問いかけの力を高めるためにはどうしたらよいのか?

私なりに4つ考えてみました。

空気を読まない

1つめは、空気を意図的に読まないことです。

単に空気を読まない人間は、組織的な仕事をしていく上での障害になることもありますが、そうではなく、ある場面だけ意図的に空気を読まないということです。

たとえば、「これは一見素人考えの馬鹿な質問だけど、もしかしたら本質に迫れるかもしれない」と思ったことを口に出して言ってみることがあります。

普段は空気を読んで、まわりへの配慮を怠らないようにするのですが、議論や会議などの重要な場面では意図的に馬鹿になってみるということです。

異文化を体験する

異文化を体験することも大事です。

私も経験がありますが、外国人と仕事をすると自分のこれまでの経験をゼロリセットしなければならないのでは?という場面に遭遇します。

たとえば、海外ではステップアップのための転職は当たり前ですし、欧州だと休みを1ヶ月くらいとります。

こういう日本ではあまり見ない海外の当たり前を見ることで、従来とは異なる問いかけが生まれてきます。

私も海外のこうした経験を経てからは、サラリーマン管理職時代に年末年始は2週間の休みをとるようにしていました。(欧米との仕事が多かったので、欧米のクリスマス休暇に合わせたという事情もありますが)

異文化体験は自分への問いかけの源泉になります。

15カ国以上の人と仕事をしてきた私の学びをまとめた記事もあわせてご覧ください。

15ヵ国以上の外国人と仕事をして学んだ8つのこと私はこれまでの15ヵ国以上の外国人と一緒に仕事をしていきました。国別にみると、以下のようになります。 アジア・パシフィック ...

若い人の意見を聞く

先入観がない人の意見は貴重で、特に若い人の意見は大事です。

若い人の意見は、経験がない分、年長の人からすると不十分な点ばかりが目立ってしまいますが、そうした意見を頭ごなしに否定せずに聞いてみるという姿勢も大事でしょう。

本書でも書かれていた、「リバースメンター」という仕組みもよいと思います。

通常、メンターは年長者が年少者に対してやるものですが、それを逆にして若い人が年長者のメンターになって年長者の相談に乗るそうです。

このように制度として設けるのもよいのでしょうし、一定の年齢を重ねたら(たとえば、私のように40代になったら)、意図的に若い人の意見を聞けるチャネルを持っておくのがよいのでしょう。

プロトタイプを作ってみる

本書で書いてあった提言そのままになりますが、アイデアは早々にプロトタイプにしてみるべきでしょう。その理由は、私の実体験も踏まえて書いたとおりです。

ウェブサイトだったら、いきなり制作に入らずにワイヤーフレームという構成図を作りますが、そのレベルでもよいでしょう。

ハードウェアであれば、3Dプリンターと粘土を組み合わせて作ったようなものでよいです。

実際に目で見たり、手で触ったりできるものを作ると、よりクリエイティブな発想ができるようになりますし、致命的な欠陥を発見する助けにもなります。(作り込んでから致命的な欠陥が見つかったら悲劇です)

まとめ

以上が「問いかけ」の力の感想でした。

筆者が日本の伝統的大企業(トヨタ自動車)出身だからか、全般的にイノベーションが起きない大企業でよくありがちなことと対比して構成されていたのが印象的でした。

なかなかイノベーティブな発想が出てこないとお悩みの方、本書を手にとって「問いかけ」の力を磨くことをおすすめします。