仕事を代理人を介して実行する場合に議論となるのが「エージェンシーコスト」です。
この記事では、そのエージェンシーコストについて解説していきます。
エージェンシーコストとは
エージェンシーコストとは、依頼主と代理人(エージェント)の利害不一致を放置することで発生する費用、または解消するために発生する費用のことをいいます。
こうしたエージェンシーコストが発生する問題のことをエージェンシー問題と言います。
エージェントとは、依頼主の仕事の全部または一部を代理で請け負う人のことをいいます。
会社の場合、会社の所有者である株主が依頼人だとすると、経営者はエージェントになり、経営者が依頼人だとすると、実際に実務をこなす従業員がエージェントになります。
この依頼人とエージェントの間にはさまざまな利害の不一致が発生します。
たとえば、株主が経営効率すなわち高いROEを求めるのに対し、企業規模で報酬が決まる経営陣がいるとすると、経営陣は効率性よりも規模を重視して、非効率な事業拡大を繰り返してしまうかもしれません。
また、経営者が従業員に対して長く会社に貢献して欲しいと思っているのに対し、従業員がスキルを身に付けて早々に転職したいと思っているケースもやはり利害の不一致が起きている状態です。
こうした所有者と実行者が存在するケースでは、それを防ぐ手立てとしてコスト(エージェンシーコスト)が発生してきます。
エージェンシーコストの種類
エージェンシーコストには、大きく3つの種類があります。
モニタリングコスト
株主が経営者の行動を監視できるような制度や組織作りです。こ
うした制度・組織を作ることで発生するコストをモニタリングコストといいます。
報告会議や経営陣による部門の診断など、経営陣が従業員の行動を監視し測定するための仕組みもモニタリングコストになります。
ボンディングコスト
経営者が株主の利益と相反していないことを示すために、情報開示や監査人による監査を受ける必要がでてきます。
こうした自らの行動が依頼主の利害と一致していることを示すためのコストをボンディングコストといいます。
従業員が、経営陣の意に反した行動をとっていないことを示す資料作成コストもボンディングコストになります。
残余コスト
エージェンシーコストの中で、上記2つを除いたコストのことです。
たとえば、エージェントの意思決定が依頼主に不利益を与える場合が該当します。
エージェンシーコストを削減する方法
エージェンシーコストを削減する方法はいくつかあります。
非金銭的なインセンティブを与える
たとえば、経営陣と従業員の関係だと、次のような手段が考えられます。
- 環境のよいオフィスやワークスペースを提供する
- 研修などの教育機会を与える
- 成果をみんなで称賛するような文化の醸成
これらのコスト削減方法は、一部の従業員には有効かもしれませんが、全ての従業員にとって有効に働かないケースも往々にしてあります。
金銭的なインセンティブを与える
金銭的なインセンティブは、エージェンシーコストを削減するために有効に働くケースが多いです。
たとえば、次のような手段です。
- ストックオプションを与える
- 利益分配をする
組織をむやみに拡大しない
上記2つは、教科書的に言われている話ですが、私が株主兼経営者として感じているエージェンシーコストの削減方法がもう1つあります。
それは組織をむやみに拡大しないことです。
組織を拡大すれば、それだけ組織内にエージェンシーが増えることになり、そのためのコストが増大していきます。
大企業で会議が多くなるのもエージェンシーコストの1つです。
また、社員が増えると、組織にフリーライドする働かない社員問題が起きます。
では、組織をむやみに拡大しないためには、どうすればよいか?
私は2つあると考えています。
- 自社のコアな事業領域に集中する
- 社員を増やさずに業務をアウトソースする
高い価値を生み出せるコアな事業領域に集中することで、エージェンシーコストを最小化することができます。
一方で、社員を増やさずにアウトソースを増やすことも、(社員に比べると)エージェンシーコストは削減できる方向にいくと感じています。
アウトソースにも当然エージェンシーコストはかかりますが、いつでも契約を切れるという緊張感があるゆえに、アウトソースされた側が自立的に仕事の成果をコントロールすることが期待できます。
まとめ
代理人に仕事を任せる場合、一般的には所有者と代理人では利害関係の不一致点があるはずなので、エージェンシーコストは避けられないコストとなります。
ですが、マネジメント・システムの工夫により、エージェンシーコストを最小化することは可能になるでしょう。
代理人を介して仕事をすることを考えている方は、エージェンシーコストが不可避のものであるという認識を持つことと、どう抑えるか絶えず工夫するということが大事になるでしょう。