日本では、会計方針がいくつかある場合、企業の任意によって選ぶことが認められています。
会計方針によって、売上や費用は大きく変わる場合があります。
したがって、財務分析の際は(特に他社との比較の際は)、会計方針を確認しておく必要があります。
ここでは、財務会計の基礎となる財務諸表に記載される項目の中でも、売上、費用に与えるインパクトが大きい重要度の高いものについて取り上げます。(会計方針は、短期スパンで見た売上や費用には影響がありますが、長期スパンで見ると、売上や費用の累計は、どれを採用しても変わりません。)
棚卸資産の評価方法
棚卸資産のには2つの評価基準と、主に3つの評価方法があります。
■評価基準
評価基準には主に次の2つがあります。
※原価法
※低価法
原価法とは棚卸資産を取得時の原価で評価する方法です。(ただし、棚卸資産に大きな含み損が出たときは、強制的に低価法での評価が要求されます。)
低価法とは棚卸資産の取得原価と時価を比較して、どちらか低い方の価格で評価する方法です。低価法を採用すると、棚卸資産の時価は貸借対照表の簿価と同じかそれを上回っていることになります。
■評価方法
棚卸資産の評価方法には主に次の3つがあります。
※先入先出法
※後入先出法
※平均法
先入先出法(FIFO)とは、仕入れや製造の時期が古い棚卸資産から順に販売されていくとした方法です。インフレのときは、現在の販売価格が高く、昔の原価が安いため、利益の計上は大きくなります。しかし、原価の高いものが棚卸資産として残るため、棚卸資産の計上も大きくなります。
後入先出法(LIFO)とは、仕入れや製造の時期が新しい棚卸資産から順に販売されていくとした方法です。インフレのときは、現在の販売価格が高く、今の原価も高いため、利益の計上は小さくなります。しかし、原価の安いものが棚卸資産として残るため、棚卸資産の計上も小さくなります。
平均法とは、期首在庫と一定期間の仕入原価の平均で、棚卸資産を算出する方法です。インフレ時の利益計上は先入先出法よりは小さくなりますが、後入先出法よりは大きくなります。平均法は、上場企業の約半数が採用している評価方法です。
減価償却の方法
減価償却には毎年一定額を費用化する定額法と毎年一定率を費用化する定率法があります。
定額法=(取得原価-残存価格)×(1/耐用年数)
定率法=(取得原価-減価償却費の累計)×償却率
定額法は計算が簡単であるという長所がある一方、設備の収益力が衰えて、修繕費が増加する後年に費用負担が多くなるという欠点があります。
定率法は設備の収益力が高いときに、費用を多く計上できる長所がある反面、設備導入当初の費用負担が大きくなるという欠点があります。
日本の企業では一般的に有形固定資産では定率法が使われる場合が多く、無形固定資産では全て定額法が使われています
引当金の計上方法
引当金とは、将来の支払が確実に予想される場合に、当期の費用として計上するために設定される負債項目のことです。代表的なものに、貸倒引当金と退職給付引当金があります。
収益の計上基準
企業会計原則の中に「すべての費用及び収益は、その支出及び収入に基づいて計上し、その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。ただし、未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。」と記述があります。
前者の「その発生した期間に正しく割当てられるように処理しなければならない。」を発生主義といい、後者の「未実現収益は、原則として、当期の損益計算に計上してはならない。」実現主義といいます。
収益(売上)については、通常商品やサービスが顧客に販売された時点で得られると認識すること、すなわち実現主義で考えることを原則としています。具体的な売上基準には次のようなものがあります。
■出荷基準
商品の出荷時点で売上を計上する基準のことです。一般的に最も多く用いられる基準です。
■割賦基準
分割払い販売を行っている会社が採用する基準です。割賦販売の場合、分割払いの途中で売上金を回収できなくなるリスクがあるため、分割払いの回収期間が来たときや、実際に入金があったときに収益計上することが認められます。
■工事完成基準
建設会社で長期間の工事に採用される基準です。工事完成して引渡しが完了したときに収益を計上する基準です。しかし、工事完成基準だと必ずしも正確な実態を表せない場合があるため、次に示す工事進行基準のように発生主義で考える場合があります。
■工事進行基準
同じく建設会社で長期間の工事に採用される基準で、発生主義に基づく考え方です。決算期末の工事の進行状況に応じて収益を計上する基準です。費用及び収益の認識につき、工事とは異なりますが、プリペイドカードでの決済が多いサービスでも、進行基準を用いる場合があります。(出荷基準だとサービス提供の前に過度に売上を計上してしまうことになり、実態と大きくかけ離れるためです)
費用の計上基準
費用の計上基準には次のようなものがあります。
■現金主義
現金の入金時を収益として、現金の支払があったときに費用として認識する基準のことです。この基準は、本当の意味での収益と費用の関係性を把握するのが難しいので、好ましくない基準といえます。
■発生主義
発生主義とは、先に述べたように「費用の発生した期間に正しく割当てられるように処理する方法です。この場合、費用が発生した期ではなく、費用に対応する収益が発生した期という意味になります(これは費用収益対応の原則に基づきます)。この基準は、実際の現金の動きには連動しませんが、収益と費用の関係性がわかりやすくなる基準です。日本の企業は、ほぼ全て発生主義を採用しています。
その他の方針変更
このほかに、セグメント情報記載の際のセグメンテーションの方法を変えたり、勘定科目の区分変更(たとえば流動資産に計上されていたものを固定資産計上に変更)をする場合も会計方針の変更となります。
会計方針の変更と継続性
企業会計原則では、みだりに会計方針を変更してはならないと定められています。したがって、企業は短期間に何度も変更したり、利益操作の目的で会計方針を変更することはできません。(企業会計原則では、これを「継続性の原則」といいます)
ただし、会社の実態をより正確に表現できるとか、税法の改正に合わせるなどの正当な理由があれば、変更することができます。
会計方針変更にあたらないもの
代表的な例として、たとえば次のようなものは会計方針の変更にはあたりません。
・会計上の規定に伴う区分変更
(例)固定負債だった社債や長期借入金の返済期限が1年以内になることで、
流動負債に変更する場合。
・会計上の見積りの変更
(例)貸倒引当金や退職給付引当金の見積り額を変更する場合。