経営戦略論の中で有名なフレームワークの1つに「アンゾフのマトリックス」があります。
アンゾフのマトリックスは、ロシア生まれのイゴール・アンゾフ氏が考案したことから名付けられましたもので、会社の成長戦略を網羅的に議論するためのフレームワークです。
この記事では、アンゾフのマトリックスを紹介していきます。
アンゾフの経営戦略の体系
アンゾフのマトリックスは、横軸を製品・サービス、縦軸を市場・顧客として、それぞれ既存、新規という軸で2つに切り分けたマトリックスです。
既存製品 | 新規製品 | |
既存市場 | 市場浸透戦略 | 製品開発戦略 |
新規市場 | 市場開発戦略 | 多角化戦略 |
マトリックスは4つの象限に分類され、ぞれぞれの象限における戦略は、以下のように呼ばれています。
- 市場浸透戦略
- 市場開発戦略
- 製品開発戦略
- 多角化戦略
アンゾフは、これら4つの戦略を以下の視点から論じるべきとしています。
- 自社の製品と市場の視点:製品と市場ニーズから進出分野を明らかにすること
- 成長ベクトルの視点:成長させる分野を考えること
- シナジーの視点:新しい分野に進出することによる既存事業との相乗効果を考えること
- 競争上の利点の視点:他社との優位性を考えること
ここからは、4つの戦略の詳細を解説していきます。
市場浸透戦略
市場浸透戦略とは、既存の市場の中で、既存の製品の売上を最大限伸ばしていく戦略です。
顧客のリピート率を上げたり、顧客の購買頻度を上げたりする施策が代表例として挙げられます。
市場浸透戦略においては、以下のようなことが行われます。
- 既存製品への付帯サービスの追加
- 既存製品のコスト・価格ダウン
- 既存製品の広告宣伝
- 既存市場における新規顧客の獲得
割引クーポンの発行も、市場浸透戦略の1つで、割引クーポンによって顧客が再び購買する理由を作ることを目的としています。
しかし、今日の競争環境においては、市場浸透によって新たな顧客を見つけるのは容易ではなく、既存の競合から顧客を奪うケースの方が多くなります。
製品開発戦略
製品開発戦略とは、既存市場に対して、新しい製品を販売していく戦略です。
新しい製品を展開することで、同じ顧客により多くの製品を買ってもらったり、より単価の高い製品を買ってもらったりする施策が代表例として挙げられます。
製品開発戦略では、既存製品と関連性の高いものを展開することが有効で、最終的には顧客がその会社と取引するだけで関連商品が全て揃うというワンストップショッピングを提供できるようになることが1つの目的となります。
たとえば、Amazonは書籍で事業をスタートして、今では家電や音楽などにも製品ラインナップを展開し、Amazonに行けば全てものが手に入るという状態を作り上げています。これも製品開発戦略のひとつといえます。
市場開発戦略
市場開発戦略とは、既存の製品を異なる顧客セグメントに販売していく戦略です。
消費者向けに販売していたものを法人向けに販売したり、子供向け商品を大人向けにリメイクしたりすることが挙げられます。
消費者向けに販売していたものを法人向けに販売する例としては、iPhoneやiPadのような端末をセットにした通信インフラの提供であったり、マイクロソフト・オフィスのようなソフトウェアがあります。
一方で子供向けを大人向けにリメイクした事例として、ドラゴンクエストがあります。
ドラゴンクエストは、元々80年代に子供向けに作られていたファミコンゲームでしたが、現在ではリメイクを重ねながらさまざまな端末に対応できるようしていて、40代、50代向けのゲームとしても展開されています。
また、日本だけで販売しているものを海外でも販売していくことも市場開発戦略の1つになります。
多角化戦略
多角化戦略とは、新しい製品を新しい市場に投入していく戦略です。
製品も市場も新規になるので、他の3つの戦略に比べるとリスクが高く、難易度も高い戦略と言えます。
多角化戦略には次の4つのパターンがあります。
水平型の多角化戦略
水平型の多角化戦略とは、現在と似たような顧客基盤を活用しながら多角化する方法です。たとえば、パソコンのメーカーが、プリンタやスキャナを扱うのは、水平型の多角化の代表例です。
垂直型の多角化戦略
垂直型の多角化戦略とは、同じ事業分野なかで川上から川下にかけて多角化する方法です。たとえば、石油の元売りを専門としている企業が、小売りにまで手を伸ばすことは、垂直型の多角化の代表例です。
集中型の多角化戦略
集中型の多角化戦略とは、既存製品と新規製品をうまく関連づけて新しい市場に多角化する方法です。たとえば、飲料メーカーが研究開発のノウハウを生かしてバイオ関連の商品を扱うことは、集中型の多角化の代表例です。
集成型の多角化戦略
集成型の多角化戦略とは、現在の製品とは全く関連のない新規事業に多角化する方法です。たとえば、衣料メーカーが食料品を扱うことは、集成型の多角化の代表例です。
アンゾフのマトリックスの課題
アンゾフのマトリックスはとてもシンプルなフレームワークでありながら、大きな戦略の方向性論じるのに有効なフレームワークとして今日でも応用されています。
一方で、成長の方向性には、収益ポテンシャル、リスク、実現性などさまざまな観点から可能性がある中で、やや単純化議論したになってしまうという課題があります。
また、このマトリックスだと大まかな方向性しか示せないので、成長に向けての実行プランを論じるにはやや弱いという問題もあります。
アンゾフのマトリックスでは、大まかな方向性のみを議論した上で、詳細のオプションや実行計画については、別で議論する必要があるのでしょう。
その他の成長戦略のフレームワーク
アンゾフのマトリックス以外にも、さまざまな成長戦略のフレームワークがあります。
以下3つを紹介します。
アンゾフのマトリックス+奥行軸
アンゾフのマトリックスの奥行方向に「新しいビジネスモデルの創出」という軸を加える考え方です。
アンゾフのマトリックスでは、製品と市場だけを切り口にしていますが、そこに既存のビジネスモデルか、新規のビジネスモデルかという軸を入れたものです。
戦略ボード
戦略ボードとは、アンゾフの考え方をより細分化した成長戦略フレームワークです。
【戦略ボードの例】
アンゾフのマトリックスでは、既存と新規の2つの切り口しかありませんが、実際には既存と新規だけにキレイ分けられるものではなく、改善や微修正、拡張という概念が存在します。
そうした新規と既存の間にある施策を表現したのが、この戦略ボードです。
市場ポテンシャル分析
市場ポテンシャル分析とは、成長機会を市場のポテンシャルをベースに考える方法です。
【市場ポテンシャル分析の例】
これは自社の売上と市場ポテンシャルを考えたときに、どのようなギャップが存在しているかを示しているものです。
それぞれのギャップを埋める方策例として、以下のようなものがあります。
競合売上の獲得
製品やポジションの差別化
競争優位な価格設定
ユーザー拡充
新たなユーザーへの魅力付け
現ユーザーの使用頻度・購買頻度の増大
流通拡充
流通葉に、または密度の増大
製品ライン拡充
フルラインナップ展開
まとめ
成長戦略を考える上で、広く知られているアンゾフのマトリックスと、その他3つのフレームワークを紹介しました。どのフレームワークもこれから成長戦略の大枠を考えていく上で、大変有用なフレームワークです。
ご自身の会社の成長戦略立案にぜひ適用してみてください。