マーケティングには、一般消費者相手のもの(B2C)の他に法人向けのもの(B2B)があります。
法人相手の場合でも、マーケティング・プロセスに基づいてマーケティング戦略を考えていくことに違いはありませんが、それぞれの要素の中でいくつか違いがあります。
この記事では、B2BマーケティングとB2Cマーケティングの違いについて解説していきます。
法人と一般消費者 マーケティングの違い
法人マーケッティングと一般消費者向けマーケティングの主な違いは以下のとおりです。
法人 | 一般消費者 | |
セグメンテーション | 地理的な要因、組織形態(官・民)、組織規模などで切り分ける。また、自社商品の購買履歴で分けることもある。 | 人口動態、年齢、性別、職業、居住地域など個人的な特性で切り分けることが多い。 |
ターゲット | 特定されていて、幅が狭い。 エンドユーザーとは異なるひとがターゲットになる。 |
幅広い。 基本的にエンドユーザーがターゲット。 |
購買決定時間 プロセス |
客先で、会議や稟議経て決まることが多く長い(組織内の利害関係が絡んでくることもある)。 | 比較的短い |
購買決定要因 | ユーザーの利益につながるかどうかが重要になってくる。 | 利益もあるが、直感的な要素で決めることもある。 |
購買決定者 | 大人数(複数の会社が絡んできて、さらに同じ会社にも多数の意思決定者がいる) | 少人数 |
購買単価・数量 | 大口になることが多い。少量取引の場合は高価になることが多い。 | 小口・安価になることが多い。 |
製品 | 専門品が多い。 ユーザーニーズにより開発することがほとんどで、ユーザー向けの特定仕様になることが多い。 製品単体ではなく、ソリューションを求められることも多い。 |
専門知識を要するものは少なく、汎用品が多い。 |
価格 | ユーザーにとっての費用対効果によって決定されることが多い。値引きされることも多い。 | マーケットニーズに合っていればOK。値引き要請も少ない。 |
流通 | 経路は短く、営業マンが直接販売することが多い。 | 経路が長く、特にメーカーの場合、直接消費者と取引することが少ない。 |
プロモーション | 営業マンによる直接営業がほとんど。あとは業界団体のセミナーなど | CM等さまざま |
法人ではキーマン探しが重要
上にも書いたように、法人では一般消費者と異なりDMUが非常に多いというのが、大きな特徴になります。(DMUとは、Decition Making Unitの略で購買決定関与者のことを示します)。
また、購買決定者がどの部門の人かによって、購買基準が異なる場合があるということに注意が必要です。
たとえばメーカーの場合、同じ会社でも製造部門・設計部門・購買部門では全く購買基準が異なります。
製造部門の場合は、品質や納入スケジュールを、設計部門の場合は、その他に技術力の高さを、購買部門の場合は価格を重要視する場合が多いようです。
また、ひとつの仕事に複数の業者が絡む場合は、各々が利害関係を築いているため、その利害関係をしっかり把握しておくことも重要です。
たとえば、建築業界では、施主、建築士、ゼネコン、サブコン、設備メーカー、建築機材メーカーなどが複雑な利害関係を築いています。
このように判断基準の違う複数の人(あるいは組織)に売り込みをかける場合は、必ず関係者マップを整理して、誰を重点的に攻めるべきかを考えておく必要があります。
法人に求められるソリューション
法人相手の場合だと、商品やサービス単体ではなかなか差別化できず、包括的なソリューションで差別化するケースが多くなります。つまり、製品やサービスを通じて、顧客の課題解決につながるような仕組みが必要というわけです。
法人マーケティング戦略の構築ステップ
消費者に対するマーケティングと同じように、法人に対するマーケティングにおいても、内外の環境分析をして、セグメンテーション、ターゲティングを考えるのが基本になります(法人相手の場合、ポジショニングを考えることは少ないです)。特に、DMUの構造を考えることが重要です。
また、マーケティングの4Pは製造業や消費者向けビジネスにおけるモデルでしたが、流通と販促が明確に切り分けられない法人マーケティングにおいては、4Cという概念を用いた方がより明確にマーケティング施策を立てられると言われています。
4Cとは
4Cとは、広告学者のラウターボーンが考え出したフレームワークで、売り手の視点で構築された4Pの概念を買い手の視点に置き替えたフレームワークです。
流通と販促を切り分けにくい法人マーケティングを考える場合や、製造業ではなくサービス業やネット業界でマーケティングを考える場合は4Pよりも4Cで考えた方がマーケティング施策をより具体的に考えることができます。
売り手視点の4P | 買い手視点の4C |
製品 (Product) |
問題解決 (Customer Solution) |
価格 (Price) |
コスト (Customer Cost) |
流通 (Place) |
利便性 (Customer Convenience) |
プロモーション (Promotion) |
コミュニケーション (Customer Comunication) |
法人マーケティングにおける基本ツールと戦略
ここでは、法人マーケティングでよく用いられる手法・ツールと、2つの基本戦略について解説します。
チャンスマップ
チャンスマップとは、事業機会がどこにあるかを一目でみるための図のことです。チャンスマップを作ることで、どの部分が最も魅力的なのかを視覚的に把握することができます。
一般的なチャンスマップの一例として下図のようなものがあります。
これは横軸に市場規模、縦軸に市場シェアをとったもので、面積が売上規模を表します。
このようにすると、一目でどの市場が大きく、どの市場のシェアが高いのか、今後どこを攻めるべきなのかなどが、視覚的にわかるようになります。
この他にもバリューチェーンを用いたチャンスマップがあります。
業界全体のバリューチェーンを俯瞰することで、今後バリューチェーンの構成要素はどうなるか、参入企業はどうなるか、どの部分が最も利益率が高く、どの部分が汎用化されて競争が激しくなるかなどを分析できます。
セグメンテーション
消費者相手のビジネスでは、年齢、性別、職業、住所、趣味などがセグメンテーションの切り口として一般的です。
しかし、法人相手の場合、ビジネスの行動特性とニーズの洗練度が重要な切り口になってきます。
実際にセグメンテーションを行う場合は、それらの切り口をよく表す代表指標を使います。たとえば、ビジネスの行動特性だと、「事業規模」、「交渉力」、「価格敏感度」、「接触頻度」などが挙げられます。ニーズの洗練度だと、「要求ニーズの高さ」、「高度な製品の比率」、「顧客の顧客の特性」などです。
売上方程式
消費者相手のビジネスの場合、売上方程式には、客数×客単価という式を用いるのが最も一般的です。しかし、法人相手の場合、プロセス別の売上方程式が重要になってきます。
たとえば、次のような方程式があります。
売上高 = 業界売上高 × 自社シェア
= 業界売上高 × 商談カバー率 × 勝率
= 業界売上高 × 特約店カバー率 × インストアシェア
= 業界売上高 × カバー率 × 認知率
× トライアル率 ×リピート率
2段目の式を見ると、商談のどのくらいの比率をカバーしているか、カバーした商談でどのくらい競争に勝っているかの掛け算でシェアが決まることがわかります。
こうした分解は、自社のどこが弱く、次にどんな打ち手を打てばよいのかを示唆してくれます。
2つの基本戦略 標準化戦略とカスタマイズ戦略
法人マーケティングでは、大きく2つの戦い方があります。標準化戦略とカスタマイズ戦略です。
標準化戦略
多くの顧客に共通に使われる製品・サービスで、安価に大量販売し収益を得る戦略です。規模の経済性、経験効果を効かすことが重要となります。
したがって、継続的かつ大量に取引されるものや、ライフサイクル上の成熟期にあるもの、価格の安さで勝敗が決まるものは標準化戦略が向いています。
この戦略をとる場合は、チャネルのカバー率やプロモーションによるブランド力強化が必要になってきます。また、業界内のデファクトをとるためや、業務の標準化を図るための先行投資が重要となってきます。
カスタマイズ戦略
顧客ごとのオリジナル仕様の製品・サービスで、他社よりも高い収益を上げる戦略です。いかに特定の顧客ニーズに合致したものを提供できるかが重要となります。
したがって、取引量が不定期で量の少ないもの、価格以外の条件が決め手になるものがカスタマイズ戦略に向いています。
この戦略をとる場合は、直接営業で顧客のニーズをしっかり聞き取ることや、既存顧客からの口コミを生み出すような活動が必要になってきます。
また、特定顧客との長期の取引関係構築のためや、高度な製品・サービスを生み出すための先行投資が重要となってきます。
2つの戦略における4P比較
標準化戦略 | カスタマイズ戦略 | |
製品 | 完全標準品 セミカスタマイズ製品 |
特注品 |
価格 | 標準リスト価格 | 特別価格 |
チャネル | 販売特約店や卸など代理販売チャネル、通信販売 | 直営スタッフが訪問 |
プロモーション | 不特定多数相手、企業ブランドの訴求 | 既存顧客からの紹介、業界内の口コミ |
まとめ
B2Bマーケティングにおける基本的なプロセスはB2Cの場合と同じですが、その中身で考えることはB2Cはかなり変わってきます。それは相手が法人であることで、顧客の専門性も高くなり、一回の取引量が増え、意思決定プロセスが複雑になることにも影響しています。
この記事が、B2Bのマーケティングに従事している方の思考の助けになれば幸いです。
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