私の好きなビジネスパーソンの1人として冨山和彦氏がいます。
冨山和彦氏は、産業再生機構でカネボウの再建を、JAL再生タスクフォースで日本航空の再建をリードしてきた人で、その著書には企業再生の中で起きたドロドロとしたリアルな現場体験に基づく鋭い視点が満載です。
この記事では、そんな冨山和彦氏の本の中で、特におすすめできるものを紹介していきます。
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冨山和彦のプロフィール
冨山和彦氏の経歴は以下のとおりです。
東京大学法学部卒業。東大在学中の1984年に旧司法試験に合格。1985年3月に同大学を卒業しボストン・コンサルティング・グループに入社。翌1986年にはコーポレイトディレクションの設立に携わり、設立後は経営戦略の立案やその実行支援を担当。1990年にスタンフォード大学Master of Business Administration取得。2001年には代表取締役社長に就任した。
(中略)
2003年4月からは産業再生機構の設立に参画、代表取締役専務兼業務執行最高責任者(COO)として合計41社の支援をリード。
2007年、コンサルティング・企業再生を取り扱う株式会社経営共創基盤(IGPI)を設立し代表取締役CEOに就任、同社は関東自動車・茨城交通・福島交通や岩手県北自動車、浄土ヶ浜パークホテル、パイオニアなどの再生支援、
2009年9月、政府のJAL再生タスクフォースサブリーダーへの就任を機にJALグループの再建に専念するため、代表取締役CEOを退任し取締役となり、その後同年12月4日付けで再び代表取締役CEOに就任。
パナソニックや東京電力ホールディングスの社外取締役などを務める。
出典:Wikipedia
東大在学中に司法試験に合格して、スタンフォード大学でMBA取得という、これだけ見てもピカピカのエリートにしか見えません。
一方で企業再生という論理だけでは人が動かない泥臭い世界で長年実務をしてきた経験もあって、著書で書かれている考え方は実務で明日からでも使えるものも多く含まれています。
私は昔、冨山和彦氏のセミナーを生で聞いたことがって、その後に挨拶程度に会話をさせてもらったことがありますが、若年の私に対してもとても腰が低く、気さくに人と接する雰囲気の人でした。
幾多の修羅場をくぐってきた経験があるからこそ、誰に対してもそうした態度で接することが重要だと思っているのかもしれません。
冨山和彦の著書おすすめ5冊
このような経歴の持ち主なので、冨山和彦氏の本では、綺麗事のような戦略論ではなく、修羅場の中から見えた人間の本質やリーダーシップのあるべき姿を論じたものが多くなっています。
会社は頭から腐る
会社組織が生きる死ぬも全てトップの言動にかかっていることを説いた一冊です。
まず人は性格とインセンティブの奴隷であるとして、人の行動を決定づける要素はこの2つしかないとしています。
逆に言えば、この2つをおさえることができれば、人がどのような行動原理をとるようになるのかが予測できるようになるというわけです。
私はこの言葉を見てから、自身の組織マネジメントでも、常にその人の性格とその人を取り巻くインセンティブ構造を考えるようにしてきましたが、それくらい本書で印象に残った部分でもあります。
そして、会社の腐り方と腐らない会社を作るためのガバナンス構造とリーダーシップについて論じています。
以下、リーダーシップに関して書かれていることの要約です。
- リーダーとして必要なのは、試験型のエリートではない
- むしろ組織からはみ出して何かをやるくらいの心意気を持った人間が必要
- 自分で100万円を作り上げる苦労知っているものがトップになるべき
- 若いうちはあえて負け戦をやれ
これからリーダーを目指す全ての人におすすめです。
結果を出すリーダーはみな非常である
こちらもリーダーシップに関する本ですが、特に課長クラスのミドルリーダーについて論じた本です。
本書ではリーダーが身につけるべき力・観点について、以下の4つを挙げています。
1. 論理的思考力、合理的判断力
情緒に流されれば、人の死を招くほどの惨事につながる。リアリズムと合理性を、とことんまで突き詰めて考えよ。常に合理的思考をするためには、ひとりでも食っていけるという心の余裕を持つこと。
2. 情に訴え根負けを誘うコミュニケーション
リーダーのコミュニケーションは、組織の空気を少しずつ変えていく根気強さが必要だ。日々、論争の訓練をして、脳の基礎体力を上げよう。組織と人間の行動を現実に変革できるような、戦略的コミュニケーション能力を身に付けよう。
3. 実戦で役立つ戦略・組織論
経済構造、市場環境、競争ポジションの理解という3つを踏まえ、整合解としての戦略を考える。捨てることは成長すること。捨て続けられる企業のみが成長を持続できる。常に与党として考え、行動することから逃げるな。戦略は組織に従ってしまう。トップとミドルが共闘して、カイシャのかたちを変革せよ。
4. 評価の本質
部下評価で成果と能力を混同しない。失敗と能力の相関は、コミットして勝負したか?負けっぷりがよかったか?が見極めのポイントとなる。評価、処遇、配慮を巡る混乱は、ミドルリーダーの学びの宝庫。人間、組織、自分自身を知るチャンスを逃すな。
ミドルリーダーとして成果を出したいと思っている方におすすめです。
IGPI流セルフマネジメントのリアル・ノウハウ
M&Aを取り巻くさまざまな立場のビジネスパーソンが生き残るために、いかにその状況と自分自身をマネジメントすべきかという観点で書かれた本です。
M&Aというと、多くの人にとっては特殊な状況と感じるかもしれませんが、書かれている内容自体はビジネスパーソンとしての日々の心構えにも通じるところがあります。
- 情にほだされて判断を誤らない。経済合理性が唯一の判断基準である。
- 会社=社長でも会社=社員でもない。会社に過度に依存せず、自分の身は自分で守る必要がある。
- 今の会社に居続ける、転職して別の会社に移る、独立する。どれがいちばん今の自分にふさわしいのかをつねに意識する。
- 日本人が日本人とだけ競っていればいい時代は終わった。アジア人や欧米人と伍していくためのスキルを磨け。
- 常に見られている意識を持ち、抜かりなくそのときに備える必要がある。
- 自分のビジネスの現状と課題を把握し、数字で説明する能力があれば、どこでも通用する。自分の意見を持たない人は、相手にされない。
- 誰とでも話ができる人、聞く耳を持っている人、学ぶ姿勢を持っている人は評価が高い。
- 意思決定のプロセスに貢献していないホワイトカラーは生き残れない。積極的に違う仕事に手を出して、2本の柱で自分の身を守れ。
- 子会社を経営するのも、海外に行くのも、経験値を高める絶好のチャンス。いわゆる出世コースとは別のところにチャンスが転がっているかもしれない。
- これからの中間管理職に求められるのは、会社の外と内をつなぐ結節点。
ビジネスパーソンと一段上に上がるための心構えを知りたい方におすすめです。
IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ
こちらは修羅場経験を元にした経営分析のノウハウを書いた一冊です。
経営分析というと、財務諸表を見て比率分析をしてといった話がよく出てきますが、本書ではそうした数字の勘定はもちろんのこととして、数字を元に立てた仮説をもとに企業実態に迫る方法を描いています。
- 経営分析はまず数字から。数字をもとに背後にある企業実態を想像する。出てきた仮説を現場に足を運んで検証して企業の実態に迫る。その繰り返しで分析の質を高める。
- 世の中は教科書通りには運ばない。本当の観察力、想像力は経験を積むことでしか培われない。そして、その学習スピードは、数字と人間の両方に対する「好奇心」次第。
- 単純に規模を拡大しても、その効果が得られる業種は、実は驚くほど少ない。共有コストが薄い場合、むしろ規模の不経済が働き、勝敗を決めるポイントは拡散する。
- 経済の本質のひとつは、人間心理である。人間音痴では、正しい経営分析はできない。
- 世の中の多くのビジネスを支配しているのは、実は「密度の経済性」。単純な「規模」ではなく、密度の持つ意味にも着目せよ。
- 大競争時代の勝ち抜きの決定版は、スモール・バット・グローバルナンバーワン・モデルで、価値(価格実現力)とコスト(規模の経済)の両取りを狙うこと。スモールセグメントでのシェアとコスト、そしてスイッチングコストに着目せよ。
私自身、サラリーマン時代の海外子会社駐在や、独立後のマネジメント経験から、単に数字を見るだけでなく、その数字の背景にある人間心理の大切さを学びましたが、本書を読むと改めてその大切さを再認識できます。
プロフェッショナルコンサルティング
こちらは元マッキンゼーの経営コンサルタント波頭亮氏とともに書かれた一冊で、2人の対談がまとめられています。
コンサルティングというと、「コンサルタントじゃない私には関係ない」と思うかもしれませんが、いやいやそうでもありません。
私は、独立してコンサルタントをやっていますが、考える力だけで付加価値を生み出して提供するコンサルタントのスキルは、全てのビジネスにおける付加価値創出に役立つスキルだと思っています。
たとえば、本書で書かれているコンサルタントとして必要なことを一般化して日々の仕事でも使えるようにすると、次のようになります。
- 経営者と伴走して、現実の経営の難しさと経営者の迷いや悩みをちゃんとわかること。⇒仕事相手の悩みによりそう姿勢が大事。
- ビジネススクールで学んだことは必要な能力の1/10程度。⇒勉強だけしてできるようになったと思ってはダメ。
- 全社戦略のように因子の多い案件の場合、構造化が大変。相互関係なのか、片方の因果なのか、あるいはある種の補完構造なのかパーツ、パーツで箇所が違ってくる。さらに、それらをハードの話、ソフトの話、金の話、人の話みたいなところまで相互に構造的に関与した中で、「こうしましょう」と言えなければならない。⇒複雑な事象を整理して、相手に対して進むべき道を提案することが大事。
後半では論理思考について言及。
論理思考は筋力であるとしながらも、論理思考を磨くための勘所として独立と相関を正しく区別することと、アップルtoアップルで考えることを挙げています。
そして論理的に考えたことは、ファクトに立脚して分析することが大事で、そのためには、現場に行って何が起こっているのか確認し、情報を集めて、現実を引き起こす裏にあるメカニズムを探る必要があるとしています。
仕事の質を今よりも挙げたいと思っている方におすすめです。
以上、冨山和彦氏の本「おすすめ5冊」の紹介でした。