企業や部門の業績評価手法のひとつとしてバランス・スコアカードが使われることがあります。
この記事では、管理会計の基礎として登場する以下の3つについて解説していきます。
- 業績評価の基礎となるバランス・スコアカード
- バランス・スコアカードを用いて戦略と業績評価指標を結びつけるフレームワークである戦略マップ
- 運用上の重要概念であるKPI
バランス・スコアカードとは
バランス・スコアカードとは、総合的な視点から戦略を策定し実行するためのフレームワークです。バランス・スコアカードは、報酬に連動させた業績評価システム、経営の品質向上にも役立てられるます。
バランス・スコアカードでは、次の4つの視点で確実な戦略が実行できているかを評価していきます。
1.株主に気を配ることができているか(財務)
2.顧客は自社をどのようにとらえているか(顧客満足)
3.自社の競争優位とその源泉は何か(業務プロセス)
4.価値を高めて、創造しつづけることはできるか(質的成長)
バランス・スコアカードは、企業全体の戦略の整合性をとり、従業員ひとりひとりにその戦略に基づいた具体的なアクションを浸透させるマネジメント・システムといえ、多面的な指標で経営戦略をコントロールできるところが利点です。
バランス・スコアカードのKPI例
バランススコアカードを用いた経営管理の指標であるKPI(※)の例として次のような例があります。(※KPIについては、後ほど解説します)
財務の視点・・・売上、利益、キャッシュフロー、ROE
業務プロセスの視点・・・新商品開発期間、不具合時の対応期間
顧客満足の視点・・・市場シェア、リピート率
質的成長の視点・・・従業員の意識、新技術の提案件数、特許出願件数
指標を選ぶときには、次のようなポイントを考慮しておく必要があります。
・戦略の評価を正しく判断できる指標を選ぶ
・定量化が容易である
・測定が容易である
バランススコアカードを作成する上では、4つの視点における、KGI、KSF(CSF)、KPIを確認して、具体的な行動に掘り下げていくことが重要です。
戦略とバランス・スコアカードの位置づけ
バランス・スコアカードの活用事例
私は前職で出向していた海外の会社では、バランス・スコアカードを人事評価に活用していました。
この後に解説する戦略マップと紐付けるのではなく、あくまで4つの視点を軸に目標とKPIを設定していました。
しかし、日本に在籍しているときに活用することは無かったですし、ネット上の声を拾っても日本で活用されている事例は少ないようです。
こちらは、ツイッター上で相互フォローしている小林さんからの投げかけに対する反応です。(予断もありますが)
4つの視点に限って言えば、中国の米系会社に出向していたときに人事や組織評価で活用されていましたが、あまりメジャーではないですよね。
— セーシン (@n_spirit2004) April 15, 2019
管理会計の本でよくBSC(Balanced Scorecard)って出てくるんですが、思い返してみるとBSCという言葉を実務(経企の方)ではあまり聞く機会なかったんですが。普及してないのか、それとも当たり前すぎて出ないのか、よく分からなくなってきた、、
私の回答
4つの視点に限って言えば、中国の米系会社に出向していたときに人事や組織評価で活用されていましたが、あまりメジャーではないですよね。
上記小林さんのツイートへの回答として、コメント欄には以下のような情報がありました。
もう10年ぐらい前の話ですが、日系大手の光学機器メーカーでがっつりBSCが使われてましたよ〜。少数派だったのですかね?当時はEVAの変形版のような指標もあって、今から思い返すとなんだか混沌としてましたw
日本でBSCを導入している企業はここ数年はほとんどないようです(15年くらい前に流行ったけどやめた)。もともと、「非財務業績も大事!」って考え方が、財務業績しか見てなかった米国企業にささったわけですが、日本はもともと顧客満足度を始めとする非財務業績を見てたので、目新しくなかったと
上記元ツイートのコメント欄からの引用
戦略マップとは
戦略マップとは、企業目標達成のための戦略をさまざまな要素との因果関係と併せて俯瞰するために、バランススコアカードを用いて作られたフレームワークです。
戦略マップの例
下図は、戦略マップの一例です。このように、戦略マップでは、最終的なアウトプット(下の例でいくと株主価値の向上)に向けて個々の視点において取り組むべきことを整理できるようになっています。
さらに、これらの各要素にKSF(CSF)、KPI(※)を設けることで、数値的にも経営を管理できるようになっていきます。
KPIとは
KPIとは、日本語で業績評価指標と訳され、文字通り企業や企業内の部門、個人の業績を評価する上での尺度のことです。KPIは企業の経営目標であるKGIの達成のために考えられるKSFをベースに決定されます。
KPIはKSFに直結した指標を選ぶ必要があります。また、KPIは数値化できるものを選択しておくことも重要です。なぜなら、評価を行いやすいだけでなく、達成要因や未達要因の分析を容易にできるからです。
KPIの種類
KPIには大きく3つのタイプがあります。
1.インプット
作業時間や作業回数など
2.プロセス
組立時間や注文受け時間など
3.アウトプット
販売台数や利益など
インプットで管理するほど、堅いマネージメントができ、アウトプットで管理するほど、イノベーションが従業員の裁量が増えて起きやすくなります。
したがって、一般的に工場の作業者は、インプットで管理して、開発・研究部門はアウトプットをKPIにすることが一般的です。(逆に作業者にイノベイティブな行動をとられても困るし、研究者を実験回数のようなインプットをKPIにすると、おそらく組織として機能しないでしょう)
3つの種類から適切なKPIを選ぶことは非常に重要ですが、それだけでは十分ではありません。もうひとつ重要なことは、設定したKPにより、従業員が具体的な行動をイメージできるかどうかです。
たとえば、研究開発部門に売上をKPIとして設定するのは、ほぼ無意味だというのがわかると思いますが、ここまで極端な例はないとしても、KPIがミスマッチしているケースは起こり得るのです。
それは、営業部門に利益をKPIとして設定する場合です。これは一見正しいように見えますが、考えなければならないのは、そのKPIが具体的な行動にどう表れるかです。
営業が、ある程度自分の裁量で物を仕入れて、物を売っている場合は、利益という指標は極めて重要になります。この場合、営業は安く仕入れて、高く売るということに動機づけが働くわけです。
では、自社工場で作っている製品を販売する場合はどうでしょうか。一見KPIが利益でも良いように見えますが、この工場で作っている製品の原価変動が激しく(たとえば、市場相場の影響を受けやすいなど)、営業がその原価をコントロールできない場合、利益をKPIに設定された営業は商品を販売するときに非常にとまどってしまうわけです。
KPIの副作用
KPIには副作用があることも理解しておく必要があります。
たとえば、利益をKPIに設定された営業は売上を無視して利益確保に走るかもしれません。あるいは、短期的な利益を重視するあまり、すぐに利益の出にくい新規顧客の開拓を怠るかもしれません。これらは、いずれもKPIの設定が生み出す副作用です。
特に報酬と連動するKPIには、強烈な副作用が発生する可能性があることを念頭に置いておく必要があります。
副作用をカバーする方法
1.他の指標でカバーする
利益と新規顧客獲得件数というKPIを設定すれば、先ほどの後者の例を回避する手段のひとつにできます。
2.求められる機能別に組織を分ける
先の例でいくと、新規顧客チームと既存顧客チームに分ければ、新規顧客開拓チームに対して適切なKPIを設定し、仕事のモチベーションにすることができます。
3.他の組織にチェック機能を設ける
先の例とは異なりますが、たとえば、新規商品数をKPIとする開発部門に対して、
・在庫をKPIとする生産部門、
・品質不具合件数をKPIとする品質保証部門
を開発部門をチェックするための部門として入れると、互いの利害がぶつかり合い、むやみやたらに品種が増えるということを防ぐことができます。
副作用を承知で設定することも重要になる
成熟期に入った事業の場合は、ある程度複数のKPIを持たせ、複数の部門で互いにチェックさせ合うことは重要です。
しかし、急速な成長期にある事業の場合、下手に複数のKPIを入れて成長速度を落とすよりも、単純明快な指標(たとえば売上だけ)をKPIにして、成長を加速させる方がよい場合もあります。このときは多少の副作用には目をつぶる必要があります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。バランススコアカードは、4つの視点が業績を測る観点から網羅的にカバーできているので、多くの企業で業績評価の枠組みとして使われています。
みなさんも、これから業績評価の仕組みを考えようとか、部門目標を立案しようというときに、このバランススコアカードの4つの視点を参考にしてみてはどうでしょうか。