会社勤めをしていると、どこの部署にいても必ずといってよいほど聞こえてくる単語に「予算」があります。
「もう予算がない」
「予算を達成できそう」
「予算が余っているから、期末に使ってしまおう」
私も毎年の恒例行事として、予算立案と運用をしていましたが、大きな組織で予算を立てるときには、いくつも考えるポイントがありました。
この記事では、そうした私の経験から学んだ予算の立て方、予算策定の課題、管理のポイントについて解説していきます。
予算とは
予算とは、売上と費用の計画のことです。一般的に会社では、会社全体の予算と各部門の予算を策定していきます。
予算を各部門に割り当てることには、次のようなメリットがあります。
- 各部門の目標が明確になる
- 予算があることで行動計画が立てられる
- 予算を決めておくことで、予算内費用の承認を簡素してスピーディーな組織運営ができる
逆に予算がないと、部門の目標が明確にならずに、行動計画も立てられなくなります。
組織運営上で必要になる費用も毎回社長や経理の承認をもらう必要が出てくるので、組織の運営スピードが遅くなる要因になってしまいます。
予算は目標や費用管理だけでなく、業績評価にも使われます。
特に売上・利益の予算をもつ組織は、売上・利益の予算達成度がボーナスに反映されることもあります。
予算の立て方
予算の立て方には、いくつか方式がありますが、指示系統のタイプで2つ、数値立案のタイプで2つあります。
指示系統 2つのタイプ
トップダウン方式
トップダウン方式とは、最初に会社全体の目標を決めて、それを各部門の予算に割り当てていく方式です。
小さな会社だと、トップダウン方式はうまく作用しますが、大きな組織になると必ずしもトップダウン方式が有効に作用しない場合があります。
なぜなら、大きな組織でトップダウンで決めてしまったときに、現場で必要とされる保守メンテナンスの費用を計上できずに執行もできないという事態も考えられるからです。
ボトムアップ方式
ボトムアップ方式とは、各部門が現場の意見を反映した上で、予算を策定していく方式です。
この方式だと、現場の声を反映して予算を作ることができます。したがって、トップから現場の事情が見えにくくなりがちな大きな会社では、まずボトムアップ方式で予算策定されます。
しかし、ボトムアップ方式で予算を立てると、各部門が自分たちの都合で予算を作ってしまうので、会社全体の目標と大きく乖離してしまう可能性が高いです。
そこで、私の前職では、ボトムアップ方式で作った予算をレビューして、ある程度数値目標を決めた上で、再度トップダウン方式で予算の出し直しを命ずる形をとっていました。
という声はもちろんありましたが(笑)
数値立案 2つのタイプ
前年比較方式
前年比較方式とは、前年の実績をベースにして予算を策定する方法です。
たとえば、前年の売上が100億円だったとして、そこから+5%で105億円を売上予算とするのが前年比較方式です。
もちろん+5%など増分の設定にはある程度の根拠は必要ですが、ビジネスの規模や業界規模が前年から大きく変化しないという前提だと使いやすい方式ではあります。
ゼロベース方式
ゼロベース方式とは、前年の実績とは関係なく予算を策定する方法です。
たとえば、売上予算が+5%だから研究開発費も一律5%増とはせずに、その年の研究開発項目とそれに必要な費用をゼロベースで検討して予算にするのがゼロベース方式です。
通常はどちらか片方でということはなく、前年比較で考える項目と、ゼロベースで考える項目を分けて予算が立案されていきます。
大きな組織における予算策定の課題
冒頭にも書いた通り予算を立てると目標が明確になるので、組織管理がより容易になります。
一方で、予算を立てることには課題もあります。
特に大きな組織になるほど、この課題は目立ちます。
会社目標と部門要望の間の調整に時間がかかる
年度のスタートが4月だとすると、大きな組織の場合、予算の策定を前年の12月くらいからスタートさせます。
そこから各部門の予定を集めて1月にレビュー、再度1月~2月にかけて部門レビューをして、2月の末くらいに予算を確定させるというスケジュールです。
期間は約2ヶ月半です。そして、策定時期にいつも言われる言葉これです。
厳しいとは、予算が取りづらい状態を意味しますが、私が予算策定に携わるようになってから、この言葉を聞かない年はなかったです。
特に人員を増やす計画を出すと、必ずその根拠の詳細説明を求められました。
また、前職の場合は、上半期のレビューをした上で、下半期の予算を修正することもあったので、そうなると下半期が始まる10月から3ヶ月前の7月くらいから見直しの議論が始まります。
そうすると、1年のうち、7-9月と12-2月が予算策定・修正にとられる期間となります。
このように調整に時間がかかるため、極端な状態になると、予算策定が各部門の仕事の大きな部分を占めて、本来の仕事に時間を使えなくなってしまうというも起きてしまいます。
予算でバッファーを見て、チャレンジしなくなる
部門運営をスムーズにするためには予算が足りなくなることを防ぐ必要があります。
そうすると、各部門は必然的に予算を大きめにとるようになっていきます。
これが一部門だけなら、よいのですが各部門が同じようにバッファーを見るようにすると、会社全体としては何が実態として必要な予算なのかが見えなくなってしまいます。
また、バッファーを見ると年度末に予算が余ってきたときに、必要のないものを購入するという事も起こりえます。
なぜなら、そこで実績が少なくなってしまうと、翌年の予算をその実績をベースに組まれてしまうからです。
こうした状況を防ぐために、各部門には必要最小限の予算を設定しておいて、会社全体としてバッファーを見るという考え方をする場合もあります。
予算管理のポイント
予算管理をする上で一番大事になるのは、売上予算に対する達成度です。
たとえば、売上が予算に対して95%という厳しい状況にあるときに、費用予算だけは当初の予定どおり100%使うというわけにはいきません。
したがって、会社としては、まず売上の予算が確実に達成できるように管理・分析をしていきます。
当初の予定と何が違うのか、どこにズレが生じているのかをきっちり分析します。
特に以下の記事にも書いたとおり、価格は業績に大きなインパクトを与えるので、特に注意が必要です。
その上で費用の管理をします。
売上原価率は当初予定どおりか、販管費は使いすぎていないかなどです。
売上が予算を超えている局面では費用管理はシビアではありませんが、予算を下回っている場合はかなりシビアに管理していきます。
このとき原材料費や人件費(基本給)など、定常的にかかっている費用は簡単に減らせないので、必然的に研究開発費、旅費、時間外手当などで調整する形になります。
売上が仮に予算日95%だとしても、これらの費用は60-70%くらいで管理する必要があるかもしれません。
売上原価と販管費の詳細はこちらの記事をご覧ください
予算達成度で評価をするときの課題
冒頭に書いたように、予算は業績評価にも使われます。
予算を超えたらボーナスを満額、3%を超えたらボーナスを1.5倍など、予算達成度に応じて業績評価してボーナスに反映させるケースはよくあります。
しかし、この考え方が行き過ぎると、予算の数字を達成したかどうかだけが焦点となってしまい、組織が健全に発展することを妨げる場合があります。
たとえば、会社全体から見ると部門の業績外のことに協力して業務を進めた方が成長に寄与するにもかかわらず、部門業績を優先して他部門への協力をしなくなるということがあります。
したがって、予算は業績評価上の大事な要素とはしつつも、予算偏重にならないように注意が必要です。
予算偏重の評価をすると、粉飾決算などコンプライアンスに反する行為にもつながってしまうケースもあります。
業績評価の方法としては、たとえばバランス・スコアカードを参考にして財務の視点以外の視点で評価をするのが一案でしょう。
まとめ
予算は組織運営上、無くてはならないものです。しかし、予算を作り込むを目的としてしまったり、バッファーだからの甘い予算になってしまったり、予算だけで評価をしたりするなどすると、組織にかえって悪影響を及ぼすことがあります。
予算を立てる目的・意味を理解した上で、効率的に予算策定し管理できるようにすることが肝要となってきます。