近年、D2Cと呼ばれるビジネスモデルが流行しています。
この記事では、D2Cの概要、成功事例、各種考察について紹介していきます。
D2Cとは
D2Cとは、Direct to Consumerの略で、消費者に直販する形態のビジネスです。
D2Cの特徴は、自社ブランドのものを自社の販売チャネルを通じて顧客に直接届けるところです。
B2Cの場合、自社ブランドのものは流通チャネルに乗せられて、代理店や販売店などを通じてConsumer(消費者)に販売されます。
たとえば、Panasonicの家電製品は、大手家電量販店や系列の代理店・販売店などを通して販売されていますし、カルビーなどが作る食品もスーパーという末端の消費者への販売機能をもった場所で販売されます。
しかし、D2Cでは、その中間のチャネルも自社でコントロールしてお客さんに商品を届けていきます。
インターネットの発達に、個人での商品開発の難易度の低下が重なって、D2Cは個人レベルでもやれるビジネスモデルになってきています。
D2Cの例
D2Cはアメリカを中心に成功事例が多く、以下のような会社が成功事例として取り上げられます。
- Away:スーツケースのD2C
- Casper:マットレスを始めとした寝具のD2C
- Warby Parker:メガネのD2C
これらの会社は自社で作った商品をオンライン販売または自社の直営ショップで販売しています。
こちらのブログ「D2Cニューヨーク視察記」にショールームの訪問体験記があるので、どのような商品を扱っているか参考になるかと思います。
各会社の概要を以下に紹介します。
Away
スーツケースの会社です。有名ブランドと格安ブランドの間の価格で、少し質のよいスーツケースを手頃な値段で販売しています。
旅行好きの2人の女性が共同で創業しており、こんなスーツケースがあったらよいなを自分たちで実現してしまった会社です。スーツケースでスマホの充電が可能、永久保証付で壊れても修理してくれるなどのサービスが付帯しています。
https://twitter.com/alan_arakawa/status/1103611323013828609
Casper
マットレスの会社です。マットレスを圧縮して小型冷蔵庫くらいの大きさにして顧客のところに届けるのが特徴です。
この商品を買う購買層が決して広い家には住んでいないことから、届けるときの持ち運びが簡単になるように圧縮しているのです。また100日間無償で返品可能という保証内容が付帯されているのが特徴です。
サンフランシスコ郊外のTargetに寄ったんだけど、MDがすごいよくなっていて買い物客が多いことにめちゃくちゃ納得した。ちょっとした消耗品類や着る期間の短い服とかTargetで揃うからうまく家族需要が取れてそう。Casperのマットレスも売ってた。やはり現場に足を運ぶのは大事。 pic.twitter.com/TjlY44Fj8c
— Rie Ehara 🌿 (@rie_rev) November 19, 2018
Warby Parker
メガネの会社です。メガネをオンラインストアで販売しているのですが、試着ができないところを独特のサービスで補完しています。
お客さんにメガネのフレームを5つ送って試着してもらった上で、気に入ったものがあれば、その後レンズを送るという方法をとっているのです。配送返送は無料で対応しています。
実はAwayの創業者の二人の前職は、このWarby Parkerだったので、D2C企業出身者が別のD2C企業を創業していたのです。
メガネECのWarby parker、視力検査アプリをリリース。医師が最後にチェックして、店舗に行かなくてもメガネが買えるようになるって。
ここはiPhone Xの顔認識で似合うメガネをレコメンドしたり、いい感じにテック取り入れてる感じ
2億ドル以上調達済み
Warby Parker https://t.co/opn9rmRyOO— NOZOMI OKUMA📚POOLってサービス作ってます (@ok_nozomi) March 16, 2018
この他にも、DOLLAR SHAVE CLUBという髭剃りメーカーや、EVERLANEというアパレルメーカーなどがD2Cブランドとして有名です。(EVERLANEは、何とホームページ上で全ての商品の原価情報をオープンにしてしまっています)
D2Cのメリット・デメリット
D2Cのメリット・デメリットには次のようなものがあります。
メリット
- 流通チャネルを介さないのでコストを安くできる
- 作り手が消費者・ユーザーから直接声を拾える
- ブランドイメージのコントロールが容易である
デメリット
- 規模の急拡大が難しい
- 自社で全てを揃えるための投資が必要となる
しかし、近年ではこの規模の急拡大をインターネットやSNSが補完する役目を果たしてくれています。
創業当初はリアル店舗を持たなくても商品を販売できますし、商品が人気になるとSNSを使って口コミで一気に広がるので、以前に比べると自社店舗がなくてもある程度まで規模を拡大することが容易になっています。
D2Cのポイント
D2Cは冒頭で解説したとおり、製造者が消費者と直接取引するビジネスモデルですが、単にそれだけには留まりません。
直接消費者とコミュニケーションができる強みを活かして、既存のB2C型の企業にはできないこと、またはやりにくいことをしています。
たとえば、以下のようなことです。
- 経営者や従業員がSNSで発信して、顧客と直接コミュニケーションをとる
- 創業初期には、オンラインでしか販売できないことを補完するために、お試し期間を設けている
- ブランド体験がオンライン起点で拡散されていく
- 単なる物売りではなく体験やストーリーなどセットで売り込んでいる
最後のポイントについて補足します。
たとえば、Awayはスーツケースを販売していますが、Awayが売っているのは良質な旅行体験です。
以前の記事でマーケティングではモノ売りではなく、コト売りを考えようと書きましたが、まさにAwayは良質な旅行体験を販売しているのです。したがって、単にスーツケースを販売するだけに留まらず、豊かな旅行体験を想像できる雑誌もユーザーに送っているのです。
コトの価値について書いた記事はこちらです
また、Casperも単にマットレスを売るのではなく、良質な睡眠体験を販売しようと努めています。実際にマットレスだけでなく、ベッドの横に置くキャビネットや、犬のベッドなども販売しています。ペットまで含めて良質な睡眠体験を提供しようというわけです。
D2Cで成功している会社は、こうしたことをストーリーとして消費者に伝えて、そのストーリーに共感したロイヤリティ(忠誠心)の高い顧客をターゲットにしてビジネスをしています。
D2Cに関する考察
アメリカで急成長しているとあって、D2Cについて考察している文献は多数見られます。
たとえば、WIRED(ワイアード)Vol.34には、D2CブランドのWarby Parkerを例に、ブランドが伸びる理由を次のように記しています。
Warby Parkerは、ファウンダーのひとりが旅行でメガネをなくしてしまったものの、高額(当時、約$700)なためにすぐに買い直せず、1学期間、メガネなしで授業を受けざるをえなかった体験がブランドスタートのきっかけです。
(中略)
彼らがスケールできる理由は文脈形成力に加え、既存の業界に風穴を開ける”新たな仕組み”をつくる能力に長けているからです。
アメリカ・ニューヨークのグレート・オークス・ベンチャー・キャピタルのパートナーであるヘンリー・マクナマラ氏はD2Cについて次のように言っています。
D2Cブランドの要素のなかには、従来のブランドともっと似ているように見えるものもある。それはそれでいい。だが、我々が価値を見出すのは、顧客と直接やりとりする手段があることだ。一つひとつのやりとりは、必ずしも取引につながらなくてもいい。
(中略)
これまでに見たなかでもっとも成功しているブランドとは、本当は約束であり、顧客とともに築いていく信頼だ。顧客サービス担当者とのやりとりや、自宅に届く商品など、あらゆるものを信頼できる状態だ。
DIGIDAY記事より引用
ちなみに、リンク先の記事でマクナマラ氏は、D2Cという言葉はすでに古く、DNVB(Digitally Native Vertical Brand)(直訳すると「デジタル・ネイティブを起点に生まれたバーティカル・カテゴリーに特化したブランド」)という呼び名が適切だと書いています。
最後に自身もD2Cブランドの経営者であるファブリック東京の森氏がまとめたプレゼンのリンクを貼り付けておきます。
D2Cについて、経験者ならではの視点から、とてもわかりやすくまとめられています。
まとめ
日本ではあまり一般的になっていないD2Cではありますが、今後その裾野は広がっていくと考えられます。なぜなら、日本にもD2Cが広がる土壌がすでに出来上がっているからです。
- 消費者がモノよりもコト・体験を重視するようになってきている
- 商品がコモディティ化してきて、ブランドストーリーが大事になってきている
こうした変化に加えて、消費者は見栄で買い物をすることが少なくなり、実際に必要なものを必要な分だけお金を使うという傾向が強まってきています。
そう考えると、このD2Cモデルは、以前このブログで紹介したサブスクリプション・モデルと組み合わせた上で、今後のメーカーが獲るべき方向性の1つとなっていくでしょう。
サブスクリプション・モデルについて書いた記事はこちらです