デルタモデルとは、業界構造と競争ポジションから戦略構築を考えたポーターの戦略論(5つの力、バリューチェーンなど)と、内部資源から戦略構築を考えたバーニーの戦略論(リソース・ベースト・ビュー)を補完する形でできた総合的な戦略立案フレームワークです。
デルタモデルは、アーノルド C.ハックスと、ディーン L.ワイルド2世によって、過去に提唱された経営戦略論を統合したフレームワークとして提唱されました。
デルタモデルを運用するためのステップは、以下4ステップです。
- ステップ1.戦略ポジションの決定
- ステップ2.ビジネスミッションの決定
- ステップ3.業界構造分析と競争ポジションの決定
- ステップ4.戦略目標、組織、実行計画と評価指標の決定
この記事では、4つのステップをさらに詳しく解説していきます。
ステップ1.戦略ポジションの決定
デルタモデルの戦略ポジションには以下の3つがあります。これら3つをトライアングルで表すことからデルタモデルと言われています。
ポーターが考えた3つの戦略ポジション、コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略は、いずれもベスト・プロダクトに位置づけられるものになります。デルタモデルで提唱する戦略ポジションにはトータル・カスタマー・ソリューションとシステム・ロックインという2つの戦略ポジションを追加しています。
デルタモデルでは、ベストプロダクトが最も利益率が低くなり、システム・ロックインが最も利益率が高い戦略ポジションであると解説していて、トータル・カスタマー・ソリューションはベスト・プロダクトに対して1.5倍のMVAを創出し、システム・ロックインは、ベスト・プロダクトに対して4倍のMVAを創出しているとしています。
ベスト・プロダクト: 製品の経済性に基づく競争
トータル・カスタマー・ソリューション: 顧客の経済性に基づく競争
システム・ロックイン: システムの経済性に基づく競争
戦略ポジションを実現する8つの方法
3つの戦略ポジションを実現する方法として以下の8つの方法があります。(その方法により優位性を構築している企業を()内に表します。)
■ベスト・プロダクト
製品による差別化 | 製品そのもので競合と差別化する (ポルシェ、ソニー) |
低コスト化 | 製品のコストパフォーマンスによる優位性を築く (サウスウエスト航空) |
■トータル・カスタマー・ソリューション
顧客経験の再定義 | 顧客にとってプラスになる経験を改めて定義することで顧客満足度を高める (ディズニー) |
水平方向への拡大 | 関連サービスを統合することで顧客の利便性を高める (アマゾン、ヤフー) |
顧客の活動の引き受け (カスタマー・インテグレーション) |
顧客が行っている活動をより効率化して引き受けることで、顧客のコストパフォーマンス向上に寄与する (デル) |
■システム・ロックイン
業界標準の確立 (プロプライアタリー・スタンダード) |
補完事業者とのネットワークを活用して顧客を囲い込む (マイクロソフト、インテル) |
顧客の仲介 (ドミナント・エクスチェンジ) |
売り手と買い手を仲介する機能で、顧客を囲い込み、仲介なしでは顧客が物の売り買いをできないようにする (マスターカード、VISA、ヤフーオークション) |
競合の締め出し (アクセス制限) |
競合が簡単に入ってこれないように、商圏のチャネルや市場規模の大部分を押さえ込んでしまう (コカ・コーラ、ウォルマート) |
3つの戦略ポジションと、8つの方法をデルタモデル上に表したものが、下図になります。
ステップ2.ビジネスミッションの決定
戦略ポジションを決定した上で、企業目的を決定します。そこから事業領域の定義し、コアコンピタンスを明確にします。
ステップ3.業界構造分析と競争ポジションの決定
ここでは、ポーターのフレームワークである5F(ファイブフォース)分析を使って業界構造分析をし、バリューチェーンを使って競争ポジションを確立していきます。
デルタモデルの著者は、これらの分析をする際に顧客や補完事業者まで分析することが重要と言っています。補完事業者とは、OSメーカーであれば、ソフトウェアメーカーやハードウェアメーカーといった供給業者でも顧客でもないが、業界に強く影響を及ぼすプレーヤーのことです。
特にトータル・カスタマー・ソリューションやシステム・ロックインを考える上では、顧客や補完業者の業界や付加価値構造を分析することが重要となってきます。
ポジション | ベスト・ プロダクト |
トータル・ カスタマー・ ソリューション |
システム・ ロックイン |
業界分析の対象 | 分析対象企業の業界 | 分析対象企業の業界+顧客企業の業界 | 分析対象企業の業界+顧客企業の業界+補完事業者の業界 |
バリューチェーン分析の対象 | 分析対象企業の内部バリューチェーン | 分析対象企業と顧客企業まで含めたバリューチェーン | 分析対象企業と顧客企業に加えて、補完事業者のバリューチェーン |
ステップ4.戦略目標、組織、実行計画と評価指標の決定
分析から得られる課題を特定した上で、戦略目標とそれを実行する組織構造(管理者、責任者)を決め、実行計画まで立案します。
実行計画においてどんな項目を重視するかは、最初に選んだ戦略ポジションに大きく左右されます。たとえばオペレーション効率、顧客ターゲッティング、イノベーションを考えると、戦略ごとに優先順位は次のようになります。
ポジション | ベスト・ プロダクト |
トータル・ カスタマー・ ソリューション |
システム・ ロックイン |
オペレーション効率 | 優先順位1 製品コスト低減 |
優先順位2 顧客便益を最大化 |
優先順位3 システムパフォーマンスの最大化 |
顧客ターゲッティング | 優先順位3 製品販売台数を最大化できるチャネル |
優先順位1 ターゲット顧客の選定とカスタマイズ化 |
優先順位2 ターゲットとする補完事業者の選定 |
イノベーション | 優先順位2 製品のイノベーション |
優先順位3 顧客起点のイノベーション |
優先順位1 システム構造のイノベーション |
最後に、実行項目から評価尺度と基準を決めて、それを戦略ポジションごとの優先順位により重み付けをすることで、戦略の実行レベルまでの計画にしてきます。デルタモデルでは、その際の留意点や手法まで言及しています。
まとめ
デルタモデルは、ポーターの戦略論や、リソース・ベースト・ビューだけではカバーできない戦略分類を提案しています。特に、インターネットの誕生による業界構造の考え方の変化を巧みに捉えたフレームワークであるところ、行動レベルにまで落とせる内容になっているというところが、前者とは異なる点です。
まずは、このフレームワークを活用して、自社がどの戦略ポジションに位置しているのかを確認してみてはいかがでしょうか。