棚卸資産(=在庫)は評価方法も重要ですが、どのように管理するかという視点も重要です。
この記事では、在庫をマネジメントをする際に有効な考え方を解説していきます。
在庫の役割
在庫というのは運転資金の観点からいくと、少なければ少ないほど有利で、在庫を多く抱えると、ビジネスの拡大局面においては、それだけ多くの運転資金が必要になってきます。
では、なぜ会社は在庫抱えて商売をするのでしょうか。まずは需要と供給そして在庫に関する簡単な表を下に示します。
1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | |
需要 | 100 | 100 | 0 | 200 | 400 | 400 |
生産量 | 200 | 200 | 200 | 200 | 200 | 200 |
月末在庫 | 100 | 200 | 400 | 400 | 200 | 0 |
この中で、月末在庫は次の式で表わされます。
当月末在庫 = 前月末在庫 -需要+生産量
このモデルから在庫の役割は以下のように考えることができます。
市場の需要を満たすため
在庫があると、市場の需要に対して適切に対応することができます。たとえば、5月、6月の需要を見てみると、生産量を大幅に上回っています。もし、この会社の月次生産量の限界が200だとしたら、5月、6月の需要には在庫を持たないと対応できないことがわかります。
リードタイム
もし上の例で、5月、6月の市場需要に対して、顧客が納品まで待ってくれる場合、在庫を持たなくてもよいかもしれません。しかし、もし顧客が待てずに他の会社から購入する代替案がある場合、在庫を持っていないと適切なタイミングで顧客に製品を供給できず、機会損失につながってしまいます。
生産コスト・品質の維持
上の例では、毎月200の生産量を維持する形になっています。もし仮に需要に合わせて生産することが可能だからといって、毎月の生産が0の月や、400の月がある場合に安定した生産は可能でしょうか。
たとえば、生産量が0の月がある場合に、その間の生産人員をどうするのか?という問題があります。その間に生産の習熟度が落ちて、コストや品質に影響が出るかもしれません。
一方で、通常200のところを、ある月いきなり400作るとなると、臨時工を雇ったり、従業員の残業でカバーが必要になりますが、やはりコストや品質に影響が出るかもしれません。
ある程度の繁忙期と閑散期がわかっているなら、繁忙期にあわせて、閑散期も生産を続けておく方がマネジメントをしやすい部分もあるのです。
在庫にかかるコスト
在庫を持つことによって発生するコストがあります。これは主に在庫を維持するために必要となる場所や倉庫に関係してくるコストです。場所・倉庫には、生産現場の横の物置スペースから、巨大な配送センターまでさまざまなタイプがあります。
これらのスペースには、人を配置して物を移動させたりする人員、空調・照明・水などの設備、そしてキャッシュが在庫に変換されてしまうことで、キャッシュの機会損失(通常は金利分に相当)があります。
また、以下ブルウィップ効果の記事にも書きましたが、在庫を持つビジネスはサプライチェーンの上流になればなるほど、市場変動の影響を大きく受けやすくなるので、できる限り最小在庫は圧縮したいものです。
ロットサイズ調整方法 EOQ(経済的発注量)
こうした維持コストを最小化するために考えられる指標のひとつが、EOQ(Economic Order Quantity:経済的発注量、読み方イーオーキュー)です。
原材料の発注数量が増えることでサプライヤーからの購入費用が安くなる一方で、発注数量の増加により在庫維持コストも増えることになります。EOQはその両者のバランスをとった最適な発注量のことを示します。
EOQ = (2 × 1回あたり発注費用 × 期間内必要数量)
/ 期間内在庫費用)^ (1/2)
その他のロットサイズ調整手法
一定数量の注文しか受けない
その他の調整方法としては、毎回の注文数量を固定するという方法です。もし注文量を固定することができれば、それに応じたライン設計や下請への部品の発注ができるので、工程内に余分な在庫を持つ必要がなくなります。
一定数だけ作って、それ以上を作らない
もうひとつは、一定数を作りきってそれ以上は生産しない方法です。これは特に翌日以降の持越しが難しい食品や花、新聞などで採用される方法です。この方法だと、需要に追いつかない場合の機会損失をある程度許容することになりますが、余剰在庫(=破棄ロス)をおさえることに主眼を置いたマネジメント手法です。逆に言うと、だからこそこれらの商品は需要を正確に読み切ることが大事になります。事前に注文を受け付けて、注文を受けた分だけ作るというのが最も手堅いマネジメントになります。
MOQ、SPQ、SNP
上記の他によく使われるのがMOQ、SPQ、SNPです。
MOQ:Minimum Order Quantityの略、最低発注数量(読み方エム・オー・キュー)
SPQ:Standard Packing Quantityの略、最小発注単位(読み方エス・ピー・キュー)
SNP:Standard Number of Packageの略、出荷梱包単位(読み方エス・エヌ・ピー)
たとえば、海外との取引においては、コンテナへの積載数が課題になります。40フィートのコンテナに商品を400個しか積載できない場合、401個の発注がきてしまうと、オーバーした1個のためにコンテナ手配をしたり、別途輸送手段を考える必要があります。
上記の場合は最低でもSPQは400と設定して、400個単位以外の注文が来ないようにします。そして、MOQを完成品のための部品発注単位から考えて、たとえばMOQ2,000個などとすることができます。そうすると、買い手は2,000個以上を400個単位で発注する必要があるのです。
SNPは1梱包あたりの数量のことで、運用の際の考え方はMOQなどと同様で、SNP60個というと、1梱包(ダンボール等)に60個を梱包して出荷することになります。
このように出荷・運送の制約から条件を決めて、生産側の在庫調整に生かすこともできるわけです。
JIT 生産手法による在庫調整
これまでは注文単位を適切にコントロールすることで、費用を最小化することについて書きましたが、生産手法の改善により、そもそも在庫を持たなくても対応する方法があります。それはJITです。
JITとは、Just In Time(ジャスト・イン・タイム)の略で、適切なタイミングで適切な量で作って供給し、それ以外の余分な在庫を持たなくする手法です。JITで有名なのはトヨタ自動車です。トヨタ自動車は異なる車種の車を同じラインに流して生産する「1個流し」を確立、生産の段取り変えを不要として、余分な在庫を持たずに済む方法を考案しました。
まとめ
在庫を多く持つことは企業の運転資金を圧迫する原因になるので、在庫は可能な限り少なく管理するべきものです。その方法として経済的発注量に加えて、さまざまなロットサイズ調整手法があることを紹介してきました。
これらは物流・手配・生産に関わる人達の中で常識ではありますが、その他のビジネスパーソンとしても基礎知識くらいは理解しておきたい内容にはなるでしょう。
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