「ネット通販における日本酒販売の市場規模はどの程度ですか?」
こんな質問をされると、答えに詰まってしまいませんか?
実は、こうした質問に答えるための考え方があります。
それは「フェルミ推定」です。
この記事では、ロジカルシンキングの基礎となる、フェルミ推定について解説していきます。
フェルミ推定ができると、市場規模のような未知の数字に対して、筋道を立てて大雑把に把握する力が身につきます。
フェルミ推定とは
フェルミ推定とは、未知の数字を推定できる数字をベースにして推定する方法です。
たとえば、冒頭の事例も含めて、以下のような問いがあるとします。
- ネット通販における日本酒販売の市場規模はどの程度ですか?
- 日本全国にはマンホールは何個ありますか?
- 東京都にはコンビニエンスストアは何件ありますか?
フェルミ推定の能力が身につくと、このように推定不可能に思える数字を概算で導けるというメリットがあります。
フェルミ推定は、新規事業の市場規模を予測する際にも活用できます。
フェルミ推定で重要な計算モデル
フェルミ推定で重要なのは、計算モデルを作ることです。
計算モデルは足し算と掛け算から構成されます。
たとえば、日本の人口を足し算で表現すると、以下のようなモデルが考えられます
日本の人口
= 男性の人口 + 女性の人口
日本の人口
= 20歳未満の人口 + 20代の人口 + 30代の人口 + ・・・ + 70代の人口 + 80歳以上の人口
上は、性別、下は年齢別の足し算で作ったモデルです。
一方で、掛け算だと、以下のようなモデルが考えられます。
日本の大卒の人数
= 日本の22歳以上の人口 × 大学進学率
(中には、中退している人もいるでしょうが、精緻に計算する必要がなければ、一旦無視して考えることもできます)
足し算と掛け算を複合的に組み合わせる場合もあります。
日本喫煙者数
= 男性の人口 × 男性の喫煙率 + 女性の人口 × 女性の喫煙率
このように、フェルミ推定の計算モデルを作る方法はいくつかありますが、実際にフェルミ推定をする際には、以下の点に留意する必要があります。
- 計算式に間違いがないようにロジカルに分解する
- 分解した要素の精度ができる限り高くなるようにする(曖昧な数字同士を組み合わせると誤差が大きくなってしまうため)
フェルミ推定の例
先ほど出した例の中から、フェルミ推定の実際の計算モデルを考えてみます。
ネット通販における日本酒販売の市場規模
冒頭で例として出したインターネット通販での日本酒を販売しようとした場合を考えてみます。
ダイレクトにわかる統計データがあれば、それを活用すればよいですが、統計データがない場合はフェルミ推定を使って推定することになります。
たとえば、ネット通販における日本酒の市場規模を次のように要素分解して考えることができます。
ネット通販における日本酒の市場規模
= 全国の日本酒の売上 × 日本酒の通販での販売比率
一方で、次のようなモデルを考えることもできます。
ネット通販における日本酒の市場規模
= 全国の通販売上 × 通販の酒類販売比率 × 酒類に占める日本酒の販売比率
次のようなモデルで考えることも可能です。
ネット通販の日本酒市場規模
= 競合A社の日本酒のネット通販売上 + 競合B社の・・・・
日本全国のマンホールの数
このような途方もない問題でも、計算モデルを作って、推定可能な単位に分解すればおおよその数値を推定できるようになります。
たとえば、以下のようなモデルが考えられます。
日本全国のマンホールの数
= 日本の面積 [km2] × (自宅から駅までにあるマンホールの数[個] ÷ 自宅から駅までの距離[Km])2 × 山岳部以外の面積
仮に自宅から駅までの距離が800mとして、その間にマンホールが8個あったとすると、1kmあたりで10個になります。
10個を二乗すると、1km2あたりのマンホールの数がわかり、その数は100個になります。
日本の面積は378,000km2で、そのうち半分が山岳部の面積だとすると、マンホールの数は1,890万個となり、おおよそ2,000万個と推定できます。
東京都コンビニエンスストアの数
マンホールの問題と同じように、計算モデルを作ります。
たとえば、以下のようなモデルが考えられます。
東京都のコンビニエンスストアの数
= 東京都の人口 [人] ÷ コンビニエンスストア1件あたりの人口[人/件]
自宅のまわりのコンビニエンスストアを考えてみたときに、おおよそ1つのコンビニエンスストアが、1,500人くらいをカバーしていることが推定できたら、コンビニエンスストア1件あたりの人口は、1,500人/件となります。
東京都の人口は約1,300万人なので、1,300万÷1,500を計算すると、東京都だけで8,667件のコンビニエンスストアがあると推定できます。
フェルミ推定する際のコツ・注意点
フェルミ推定をする際に注意することが3つあります。
- 精緻なモデルを作ろうとしない
- 大雑把な規模感を把握できれば良しとする
- 上下の幅が大きそうな数値には幾何平均を使う
それぞれ詳細を解説していきます。
精緻なモデルを作ろうとしない
1つめが、あまり精緻なモデルを考えようとしないことです。
精緻なモデルにすればするほど、一見精度が上がるようにも見えますが、そこに代入する変数の不確定要素が大きければ(言い換えると、推定される数字のレンジが広ければ)、計算式自体は精緻でも、最終結果はとてもラフな数字になります。
たとえば、日本全国の自動販売機の台数を事例として見てみましょう。
自動販売機の数は周辺人口と人口の分布(密度)によって、設置台数が異なるという仮説が立てられるので、都道府県別に考えられるように以下の式で考えたとします。
日本全国の自動販売機の台数
= 北海道の人口 ✕ 北海道の人口あたりの自動販売機台数
+ 青森県の人口 ✕ 青森県の人口あたりの自動販売機台数
+ ・・・・・
+ 沖縄県の人口 ✕ 沖縄県の人口あたりの自動販売機台数
これは、47都道府県別人口と人口あたりの自動販売機台数の総和になっています。
たしかに47都道府県別に特性は異なるはずですが、各都道府県の人口あたりの自動販売機台数が正確にわからないのであれば、これだけ細かく分解しても意味がありません。
それなら、単純に以下のような式で考えてもよいのかもしれません。
日本全国の自動販売機の台数
= 日本の人口 ✕ 人口あたりの自動販売機台数
このように、フェルミ推定をするときは、そこそこの精度があればOKと割り切ることが重要になります。
言い換えると、フェルミ推定では、得られる数字の精度を追い求めるよりも、そこから得られる解釈に意識を集中した方が生産的だといえるでしょう。
大雑把な規模感を把握できれば良しとする
2つめが、大雑把な規模感を把握できれば良しと考えることです。
フェルミ推定で計算できる規模は、あくまで推定の域を出ません。
ですので、フェルミ推定を使う際には、極端に言うと桁が合っていればよいくらいの感覚で捉えるのがよいでしょう。
たとえば、ある市場の規模について、3,000億円なのか4,000億円なのかを議論しても、結論はあまり変わらなさそうに見えます。
しかし、3,000億円と300億円の違いだと、市場に参入するのかどうかの判断のポイントになりそうです。
このように、フェルミ推定で求める規模感は、意思決定に影響が及ぶ範囲で把握できていればよいと考えるのがおすすめです。
上下の幅が大きそうな数値には幾何平均を使う
計算モデルで作った要素の中には、ある範囲の中でばらつくことが想定されるものもあります。
そうした場合は、幾何平均を使います。
幾何平均とは、幅のあるデータの中で代表値を示すものだと理解してください。
たとえば、先ほど事例に出した東京都のコンビニエンスストアの数で考えてみましょう。
東京都のコンビニエンスストアの数
= 東京都の人口 [人] ÷ コンビニエンスストア1件あたりの人口[人/件]
ここで、コンビニエンスストア1件あたりの人口が1,000人から3,000人くらいの幅があると考えたとします。
一般的な幾何平均の計算式は、次のようになります。
幾何平均 = (x1 × x2 × x3 ×・・・・× xn)(1/n)
※数値がn個ある場合の幾何平均
つまり、数値を全て掛け算して、n乗根を求めたものが幾何平均です。
しかし、今回のように上限と下限だけで幾何平均を考える場合は、とてもシンプルになります。
幾何平均 = (1,000人/件 × 3,000人/件)(1/2) ≒ 1,732人/件
この事例では、幾何平均の1,732人/件を代表数値として使えばよいことがわかります。
幾何平均を使って、計算すると東京都のコンビニエンスストアの件数は、1300万人÷1,732人/件で、約7,500件と計算できます。
まとめ
以上、フェルミ推定の解説でした。
- フェルミ推定とは、未知の数字を推定可能な数字に分解して求める方法。市場規模の概算を知りたいときによく使われる。
- フェルミ推定をするためにはロジカルな計算モデルを作ることが大事。計算は一般的に足し算と掛け算で構成されている。
- フェルミ推定で求めるべきなのは、意思決定のために必要最低限の数字。したがって、精緻な計算モデルを作ろうとしない、大雑把な規模感を把握できれば良しとする、上下の幅があるときは幾何平均を使うなどの工夫が必要となる。
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