β(ベータ)とは、個別株式の値動きがマーケット全体の値動きにどの程度影響されるかを表す指標です。
ベータのことをβ値(ベータ値)と呼ぶこともあります。
βが1以上であれば、マーケットの動き以上に株価の値動きが起こることを意味し、βが1以下であれば、マーケットの動きに株価が左右されにくいことを示します。
この記事では、βの計算方法と、βから財務リスクを除外したアンレバードベータについて、詳しく解説していきます。
β(ベータ)の算出方法は?
β(ベータ)は、次のように求められます。
β =
市場全体と比べたリターンのバラツキの大きさ
× 市場全体と同じ方向に動く程度
=(個別株式のリターンの標準偏差 / 市場全体のリターンの標準偏差)
× 個別株式のリターンと市場全体のリターンの相関係数
β =
個別株式のリターンと市場全体のリターンの共分散
/ 市場全体のリターンの分散
分散とは:バラツキを表す指標のことで、大きいほどバラツキが大きくなります。分散の平方根のことを標準偏差といいます。
共分散とは:2つの事象の相関の傾向を表す指標です。
個別株式の値動きと株式市場の値動きがほとんど同じになる場合、βは1に近くなります。
式市場より個別株式の振れ幅(リスク)が大きい場合はβ>1となり、逆に個別株式の振れ幅(リスク)が小さい場合はβ<1となります。
βはWACCを求める際に活用されます。
β(ベータ)をグラフから求める方法
βをグラフで表すと、その意味がよりわかりやすくなります。
下の図は2005年3月末~2007年2月末までの花王とTOPIXの月ごとのリターン(=当月の終値/前月の終値)の関係を表したものです。
この両者の関係を近似直線で表すと次のようになります。
R2値は、その直線で説明できる割合を示します。
この場合、5割程度は上の近似式で関係を表せることを意味します。(近似式におけるR2値をもっと詳しく知るには⇒単回帰分析の解説記事を参照ください。)
この直線は、TOPIXが一定のリターンをもたらすとき、花王はその約0.8倍くらいのリターンをもたらすという意味になります。
つまり、このときの直線の傾き0.8(正確には0.7985)が、βになるのです。
同じようにヤフーとTOPIXの関係をみると、次のようになります。
花王の場合と異なり、直線の傾きが大きい、すなわちTOPIXのリターンよりもヤフーのリターンの方が大きく動いていることを示します。
この場合のβは、直線の傾きである1.4107になります。
アンレバードベータとは
アンレバードベータとは、企業のリスクの中から財務リスクを除いて事業リスクのみを抽出したベータのことです。
企業が負債に頼らずに資金調達(無借金経営)していると過程した場合のベータと言い換えることもできます。
アンレーバードベータを使う意味
企業買収などで、非上場企業の企業価値や株主価値を求める場合、株主資本コストを求める際のβの計算を工夫しなければなりません。
上場企業のβは、過去の株価の動きから求めることができますが、非上場企業の場合は株価が存在しないためです。
そこで、同じ業界で事業の状況が似ている企業は、事業リスクもほぼ同一だという仮定で、非上場企業のβを求めていく必要があります。
しかし、市場でわかるβは、あくまで株主から見たときのβです。
株主から見たβには、その企業の財務リスクまで含んでいます。
株主から見ると、負債が多い企業には会社が破綻したときに手元に戻る金額が少なくなる可能性が高いので、その分だけβを高く考える必要があります。
言い換えると、負債の比率が少なければ、βは必然的に低くなります。
そこで、非上場企業のβを求めるには、類似企業の市場におけるβ(株主から見えるβ)から事業のリスクだけを抽出した「アンレバードベータ」を求めた上で、βを求める対象企業の財務リスクを加味する必要があります。
アンレバードベータの計算式
アンレバードベータβUは、財務リスクも含んだベータであるβLを使って、次のように計算できます。
βL = βU × [1 + (1-t)D/E]
βU = βL / [ 1 + (1-t)D/E ]
(D:有利子負債の簿価、E:株主価値の時価、t:実効税率)
D/EのことをD/E比率(デット・エクイティ・レシオ)と呼びます。
また、アンレバードベータを求めることをベータをアンレバー化するといいます。(この数式の証明はこのページの下部をご覧ください。)
アンレバードベータを使った非上場企業のベータ算出例
ここでは、非上場企業F社のベータ算出を例にします。
参考とする上場企業のアンレバードベータを算出する
まず、参考とする上場企業のβを求めます。これをβL(レバードベータ:財務リスクまで含んだベータです)とします。
次に、その上場企業の事業リスク(つまりその企業が無借金だったと仮定して財務リスクを取り除いた場合のベータ)を表すβをβU (アンレバードベータ)とします。
ここでは類似企業をそれぞれZ社、N社、P社とし、次のように求められたとします。
βL | D/E比率 | 税率 | βU | |
Z社 | 1.40 | 45% | 40.7% | 1.11 |
N社 | 1.35 | 35% | 41.0% | 1.12 |
P社 | 1.28 | 10% | 41.3% | 1.21 |
この3社のβUの平均をとると1.14となるので、1.14をF社のβUとします。(このように単純に平均をとる場合や、中央値をとる場合、比較対象が多いときは上下を除いた平均をとる場合もあります)
対象企業のレバードベータを算出する
類似上場企業の無借金状態での事業リスクβUを求めたら、次に非上場企業の資本構成で、類似上場企業の事業を行った場合のリスクを求めます。
つまり、類似上場企業で算出したβU から非上場企業の資本構成をもとにβLを算出します。
しかし、非上場企業の場合、バランスシート上の簿価の資本構成はわかっても、時価の資本構成(特に株主資本の時価)については、株価がないのでわかりません。(そもそも、その株価を求めるためにβLの算出をしているわけです。)
その場合は、対象企業は上場している企業に近い資本構成で事業運営されるという前提に立って、上場企業の資本構成を参考にします。
この例だと、上場3社のD/E比率の平均は30%になるので、30%でβLを計算します。
βL = 1.14 × (1+(1-0.415)×0.3) = 1.34
(税率は仮に41.5%としています。)
これが株主から見たF社のレバードベータ(リスク)になります。
その他のアンレバードベータを活用事例
アンレバードベータは次のようなケースでも活用されます。
新規事業に参入して、会社のビジネスリスクが変化するとき
アンレバードベータは、非上場企業のベータを求めるときだけでなく、ある会社が新規事業に参入する際、あるいは新規事業を買収する際のビジネスリスクを求めるときにも用いられます。
会社の事業構成を変える場合、それまでのベータで表されるリスクだけを考えるのは不十分で、新規事業のリスクを会社のリスクとして織り込む必要があります。そこで、新規事業のビジネスだけのリスクを表すアンレバードベータを業界他社のアンレバードベータを参考に算出して、会社の新規事業を加える前のアンレバードベータと資産額ベースで加重平均します。
そこで、求めたアンレバードベータは、自社の資本構成に応じてレバードベータに変換してその会社のベータとして扱います。
事業部ごとのリスクを求めるとき
同じ会社の中でも、競争環境が全く異なる事業が複数ある場合、全社のベータを用いると投資の判断を誤ってしまうことから、事業部ごとにベータを求めることがあります。その際にも業界他社を参考にアンレバードベータを求めます。
(補足)アンレバードベータ計算式の導出する手順
アンレバードベータの導出は、バランスシートから考えてきます。
次のように調達側の負債Dと資本Eが、負債の節税効果と無借金とした場合の資産に分かれていたとします。
(βはそれぞれのリスクを、tは実効税率を示します)
このとき、各ベータは次のように求められます。
[(D+E - t×D) × βU + (t×D) × βD ]
/ [ (D+E - t×D) + (t×D) ]
= [(D×βD ) + (E×βL )] / (D+E)
βL = βL × [ 1 + (1-t)D/E ] - βD×(1-t)D/E
負債に対するリスクβDはマーケットリスクに対して変動がほとんどないと考えられるので、ゼロと見なすことができます。
そうすると、上の式を変形するとβUとβLの関係は次のようになります。
βU = βL / [ 1 + (1-t)D/E ]
まとめ
以上がベータおよびアンレバードベータの解説でした。
- ベータとは、その企業の株価がマーケットの動きにどれだけ影響を受けるかを示す指標である。
- ベータは、その企業の過去の株価と、マーケット(TOPIX等)との相関から導くことができる。
- アンレバードベータとは、ベータから負債の影響度を除いて事業のリスクのみを抽出したベータのことである。
- アンレバードベータは、非上場企業や同じ企業でも事業部ごとの事業リスクを見るときに活用される。
財務・ファイナンスをもっと知りたい方は