この記事では、意思決定をする際に知っておきたい知識として、ファーストチェス理論とハインリッヒの法則を紹介します。
ファーストチェス理論
ファーストチェス理論とは、チェスをするときに「5秒で考えた打ち手」と、「30分で考えた打ち手」のうち、86%は同じ打ち手であったことが実証されたことから生み出された理論です。
ファーストチェス理論は、「速く決断して実行に移すことが大事」であることの理由の1つとしてよく使われる理論です。
実際にチェスにおいては、トッププロレベルでの14%の間違いは致命的な数字にも成り得ます。
しかし、経営場面はチェスに比べて変数がはるかに多く、やり直しもできるので、ファーストチェス理論に従って、素早く決断して実行に移すことが大事になるケースは多いです。
仮に成功確率が低くても、毎日トライすると失敗する方が難しくなる
たとえば、次のようなケースを考えてみましょう。
- 1日で考えた結論の成功確率がファーストチェス理論の86%である。
- 同じ内容を1週間考えたら成功確率が95%になる。
このとき、1日で決断してトライしたことが駄目なら、やり方を変えて次の日にもう一度やり直せるとすると、1週間のうちに1回でも成功する確率は次のようになります。
1回でも成功する確率: 1 – (1 – 0.86)^7 = 99.9%
1回でも成功する確率:99.9% >> 1週間考えて成功する確率:95%
では、1日考えたことの成功確率が86%よりもはるかに低い50%だとするとどうでしょうか。
次のような結果になります。
1回でも成功する確率: 1 – (1 – 0.5)^7 = 99.2%
1回でも成功する確率:99.2% >> 1週間考えて成功する確率:95%
ここからわかるのは、よほど大きな投資や準備のかかるものでなければ、すぐに決断し、すぐに実行して、駄目ならやり変えてトライする方が成功に近づくということがわかります。(失敗する方が難しいという言い方もできます)
ましてやファーストチェス理論によると、86%の打ち手が30分かけて考えた結果と同じわけですから、ほとんどのことは即断即決してもよいくらいの話だといえるのでしょう。
こちらの記事で、成功確率が低くても継続してトライすることが、高い成功確率をもたらすことを詳細に解説しているので、あわせてご覧ください。
なお、ファーストチェス理論に言及している書籍「トップ1%に上り詰める人が大切にしている 一生使える「仕事の基本」」では、1万人のリーダーを研究した結果、その場で仕事を簡潔できる人たちのほうが成果を上げやすいと結論づけています。
その場で仕事を完結できる能力です。
たとえば、ある新商品の発売をするかどうかを話し合ったとしましょう。
(中略)
一見、じっくり話し合ったチームのほうが正しい判断ができると思われがちですが、これも錯覚です。時間をやたらかけて先延ばしにする行動は、ライバル社に先に発売され、先に発売していたら得られた利益を失ってしまう可能性があるのです。
ハインリッヒの法則
ハインリッヒの法則とは、アメリカのハインリッヒという保険会社の社員が、過去の労働災害事例を分析した結果から得られた結論のことです。
内容は、1件の重大な事故の裏には、29件の軽微な事故と300件のヒヤリ・ハット(1歩間違えると事故につながるヒヤリとした体験)が含まれてるというものです。
これは、言い換えると、現場で起きている300件のヒヤリ・ハットに対してきちんと対策することによって、重大事故発生を防げることを示しています。
ヒヤリ・ハットとは、次のようなものを示しています。
- 段積みのダンボールが崩落して、怪我しそうになった
- 機械に挟まれそうになった
- 車がぶつかりそうになり慌てて急ブレーキを踏んだ
- 階段を下っているときに転びそうになった
これらは、事故には至っていないものの、いずれもヒヤリとする事象です。
しかし、こうした事象が起きたことを忘れたり、放置したりすることで、先のハインリッヒの法則にあるように、重大事故につながる可能性があるということです。
これは安全管理以外にもいえることで、大事に至るトラブルの裏には、必ず小さなトラブルが起こっていて、それを大きなトラブルへの予兆と考えずに放置することが、大きなトラブルにつながってしまうのです。
経営管理で得られる示唆
ファーストチェス理論からは、「ほとんどのケースで即断して即行動することが大事である」という示唆がありました。
一方で、ハインリッヒの法則からは、「小さな事象から、大きな事象を予期する」という重要な示唆が得られました。
これらを経営管理に置き換えると、私は次のようなことになるのではないかと思います。
- 決断を先延ばしにせずに、すぐに決める
- 現場に出向いて一次情報を吸い上げる
- 小さなトラブルを放置せず、速やかに共有される文化の形成
普段から会社の現場(会社によって、営業、生産、開発、管理部門などさまざまな意味合いがありますが)を丹念に歩きまわって、決断が必要なときは、最初の直感を信じて決断して、間違いがあればすぐに引き返す。
経営管理をする立場の人には、このような姿勢が、管理上求められるのでしょう。