ファイナンス

敵対的買収とは【5つの防衛策を解説】

この記事では、敵対的買収とその防衛策5つを解説していきます。

(当ブログでは、ファイナンスに関連する基礎知識をこちらにまとめていますので、あわせてご覧ください)

敵対的買収(TOB)とは

TOBとは株主に対して、証券取引所を通さずに、メディアを通じて株式の買い付けを知らせ、大量の株式の買い付けを行うことです。TOBの呼びかけは、ある会社が他の会社を買収するときだけでなく、自社の売却のために不特定多数に分散した株式を集めて、買い手に渡す際にも行われます。

TOBを仕掛けられた会社は、そのTOBに対して、意見表明報告書を通して、意見表明することが義務付けられています。そのときに会社がTOBを支持しているか、していないかが分かります。TOBを支持している場合は「友好的買収」、支持していない場合は「敵対的買収」と見なすことができます。

日本での敵対的買収の事例としては、ドイツの製薬会社ベーリンガー・インゲルハイムによるエスエス製薬を事実上傘下に収めた買収が有名です。日本でも、2006年にライブドアや村上ファンドがTOBで市場を賑わせたことがありました。

一般の株主の応募を排除する目的で、株式の時価を下回る価格でTOBが行われることがあります(これをディスカウントTOBと呼びます)。また、売買の少ない新興企業に対しても、企業価値が時価よりも低いとしてディスカウントTOBを仕掛けられる場合があります。

5つの買収防衛策

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企業が敵対的買収を仕掛けられた際の買収防衛策にはいくつかの種類があります。ここでは5種類の買収防衛策を紹介します。

ホワイトナイト

ホワイトナイトとは、買収される会社にとって友好的な買い手に買収をお願いすることで、敵対的買収防衛策のひとつです。この友好的な買い手を指してホワイトナイトとも言います。

友好的な買い手は、1/3の株式を保有することで、敵対的買収に対する拒否権を行使することができます。

ホワイトナイトの事例としては、2006年にライブドアがニッポン放送に対して敵対的買収を仕掛けたときに、フジテレビ(ニッポン放送の子会社)側に救済に入ったのが、北尾吉孝氏が率いるSBI(ソフトバンク・インベストメント)があります。

ポイズンピル

ポイズンピルとは、直訳すると「毒薬」という意味で、企業が敵対的買収から防衛する手段のひとつです。

ポイズンピルは、敵対的買収によって買収者が一定の議決権割合の株式を取得した時点で、既存の株主に時価を下回る価格で株式を引き受ける新株予約権を発行して、買収者の支配権を弱め方法です。ポイズンピルでは、発行済み株式数が増えるため、買収者に対して買収にかかるコストを大きくしたり、買収の意欲を失わせたりする効果があります。

ポイズンピルは、敵対的買収時に突如発動すると、株主価値を損なわれた株主から株主代表訴訟を起こされる可能性があり、発動した自社側にも文字通り「毒薬」となる危険があります。

ポイズンピルの事例はアメリカでもまだ見られていません。

クラウンジュエル(焦土作戦)

焦土作戦とは、敵対的買収から防衛する策のひとつです。焦土作戦では、買収の標的になった企業が、企業の重要資産を第三者に譲渡して企業の魅力を低下させ、買収意欲をそぎ、結果的に企業買収を防ぎます。

焦土作戦は、クラウンジュエルとも呼ばれます。クラウンジュエルは「王冠の宝石」という意味で、買収の対象となる企業(王冠)から企業の重要資産(宝石)を売却してしまえば、ただの価値のない王冠になってしまいます。

しかし、企業の重要資産を売却して魅力を低下させるためには、既存株主への合理的な説明が必要のため、実行された例はほとんどありません。

※クラウンジュエルの事例

クラウンジュエルの事例としては、先ほどあげたライブドアのニッポン放送買収のときに、ニッポン放送が優良資産であるフジテレビ株を他に売却を試みたことがあります。

ゴールデンパラシュート

ゴールデンパラシュートとは、買収された会社の役員が解雇される場合に、割増退職金を支払うことを決めた雇用契約を新たに締結することで、敵対的買収からの防衛策のひとつとして知られています。

割増された退職金により会社の価値が下がることを目的としていますが、実際に(特に大きな会社の場合)ゴールデンパラシュートだけで大きく会社の価値が下がることにはなりません。そのため、ゴールデンパラシュートは、ポイズンピルとセットで活用されます。

ゴールデンパラシュートとなる契約を会社と経営陣の間で交わしておくと、ポイズンピルを発動するときに、経営陣は「自分たちは(ゴールデンパラシュートがあるので)、買収された方が個人的な報酬は大きくなるが、株主のことを考えて買収を阻止する」という大義名分を作ることができます。

ゴールデンパラシュート(金の落下傘)は役員に対する退職金契約ですが、従業員に対する契約の場合は、金ほど立派ではないのでティンパラシュート(ぶりきの落下傘)と呼ばれます。

※ゴールデン・パラシュートの事例

こちらはウィキペディアから抜粋します。

1989年に、RJR Nabiscoが買収された際に、ロス・ジョンソンCEOのゴールデンパラシュートとして5800万ドルが支払われた

ウィキペディアより引用

パックマン・ディフェンス

パックマン・ディフェンスとは、買収を仕掛けてきた買い手に対して逆に買収を仕掛けることで、敵対的買収を防衛する策のひとつです。

パックマンディフェンスには、逆買収をしかけるための資金が必要です。その資金調達のために買収対象会社は借入や資産売却をすることになり、結果として最初に買収を仕掛けた買い手にとっても魅力が小さくなってしまいます。

また、最初に買収を仕掛けた買収者の方もパックマン・ディフェンスへの対応で疲弊してしまうことで、当事者以外の第三者から買収を仕掛けられる可能性もあります。

したがって、パックマン・ディフェンスはお互いにとって非常に高いリスクを伴う防衛策になります。

※パックマン・ディフェンスの事例

調べた限りでは、ほとんど事例が見られず買収防衛策の中でも珍しい手法のようです。