近年は物があふれるようになっていて、差別化された製品でないと売るのが難しいという時代になってきています。
そうした背景もあって、モノではなくサービスを売ろう、モノ売りではなく、コト売りを考えようということが叫ばれるようになってきています。
しかし、昔から製品が提供してきた価値というのは、そのモノではなく、それによって成し遂げられるコトなのです。
以下ツイートにも同じことを呟きました。
人は物を買うことによって実現されるコトを望んでいる。
物そのものではなく、コトの価値を売り込みましょうという話だね。 https://t.co/GtT1JXnogn
— セーシン (@n_spirit2004) December 24, 2018
この内容について、深堀りします。
車が提供する価値は何だったのか?
たとえば、車を例にあげてみます。
高度成長時代においては、多くの人が車を持つことに憧れを持って、爆発的に普及していきました。そんな車の本質的な提供価値というのは、「人と物をある地点からある地点に、他の手段よりも便利に早く運ぶ」、言い換えると「便利な移動手段」ということです。
バスや電車のような公共交通機関だと、時間の制約(決まった時刻に運行)と場所の制約(バス停でないと乗車・下車できない)があって利便性がよくないですが、自家用車であれば、好きな時に好きな場所にいけるという利便性がありました。
その本質的な価値に対して、さまざまな副次的な価値が加えられるようになりました。
たとえば、車を持つことがステータスになるということです。これは言い換えると、車を持っていることを自慢したいという人間の承認欲求を刺激したのです。
そのために、単に乗れるだけの車だけでなく、デザインを恰好よくしたり、「いつかはクラウン」というキャッチコピーがあったように、車名ブランド自体を憧れのシンボルに仕立てあげたりしてきました。
もうひとつの例は、運転する楽しみを得られるということです。車を運転すること、そのものが爽快であるという価値を加えました。
そのために、スポーツカーのような、加速の体感やハンドリングの喜びを得られる車が登場してきました。
さらには、ワンボックスカーのように、家族でワイワイ楽しみながら乗れる車も登場しました。これは大人数を運ぶということだけでなく、移動中に家族や仲間との時間を楽しめる空間という価値もあるわけです。
しかし、これらの副次的価値を価値だと感じず、やはり単なる「便利な移動手段」に過ぎないとな感じる人を中心に、より安価な軽自動車が普及しました。
ここにあげたことは、全て車というモノ売りの話ではなく、コト売りの話だとのがわかるでしょうか。まとめてみると、以下のようになります。
クラウン:高級車をもつというステータス
スポーツカー:運転の楽しみ
ワンボックスカー:大人数でワイワイやれる空間
軽自動車:より安価な「便利な移動手段」
こうして、車は、どんなコトを享受したいかというユーザー層にあわせて、さまざまな種類のものが作られてきました。
しかし、最近では、副次的なことに価値を見出さない層が増えてきただけでなく、そもそも「便利な移動手段」という本質的な価値すら、他の手段で満たそうとする層が増えてきました。
そうした層は、私もそうですが、特に車に魅力を感じなくなり、電車などの公共交通機関を利用したり、必要に応じてタクシーを利用したりするわけです。また、Amazonなどのネット販売+物流網が、車で物を運ぶという価値の相対的な低減を促進し、車離れを加速させるわけです。
関連する話を以下のようにツイートもしています。
単なる移動手段だった車に、メーカーがあれこれ理由をつけて、社会的ステータスのひとつに仕立てた。みんなその魔法にかかったけども、ある日「車ってただの移動手段だよね?」と気づいて魔法が解けた。ある意味、今までがバブルだったと考えると、これから急激な下り坂を迎えるのではないでしょうか https://t.co/LJbNXiEtee
— セーシン (@n_spirit2004) April 29, 2019
お金を払うときはコトの価値を意識しよう
自分がお金を払うときも、コトの価値を考えるようにすると、お金の使い方に対するか考え方は変わります。
スターバックス
スタバはコーヒーというモノを提供しているわけではなく、「居心地のよい空間」を提供しているわけです。 その空間は、仲間とのおしゃべりで使われるかもしれないですし、私のようにちょっとした仕事を片づけるのに使う人もいるわけです。
飛行機の座席クラス
飛行機を単なる移動手段と考えれば、座席など何でもよいはずです。しかし、ビジネスクラスをわざわざ使うというのは、「横になってぐっすり眠れる」とか、「広いテーブルでまわりを気にせず存分に仕事ができる」というコトに対して、エコノミーの何倍もする値段を払っているわけです。
プラレール
子供に大人気のプラレール。プラレールというのは、ほとんどが樹脂部品の塊なので原価という観点では大きなコストがかかっているものではありません。
しかし、プラレールには、車両を集める、レールを組み合わせる、そして次は何を買い足そうかということを子供と一緒に考えるという価値を提供しているのです。
こうしたコトへの価値観は人それぞれなのですが、重要なのはどのようなコトの価値にお金を払っているかという感覚をしっかり持つことなのです。
たとえば、私は、お酒が弱く、お酒の強い友人と飲みにいくと、必ず割り勘負けします。では、お酒を飲まない分、支払いを少なくしたいと思うかというと、決してそうは思いません。
なぜなら、私は食べ物や飲み物に対してお金を払っているわけではなく、友人たちとの会話の時間という価値に対してお金を払っているからです。この価値が大事だと考えれば、実際の飲食で割り勘負けしていても、全く問題にならないわけです。
お酒があまり飲めなくていつも割り勘負けするけど、
その場に対して対価を払っていると考えれば、飲み食いの量とかどうでもよいよね。 https://t.co/65S0m139lj
— セーシン (@n_spirit2004) December 21, 2018
コトの価値で考えると、代替品も考えやすい
このように、提供価値をモノそのものではなく、コトで考えるようになると、さまざまなものことがわかってきます。
上記の車の例でいうと、移動手段と考えてしまえば、タクシー利用やカーシェアリングなどの代替案も見えてきます。
あるいは、隙間時間に仕事ができる空間を求めている人にとって、もしコンビニで手軽に仕事ができる空間を作ってもらえるとしたら、わざわざ高いコーヒーを(場所代の対価として)払いに、スタバに行く理由はなくなるかもしれません。
実はお金だって同じで、多くの人はこれまで紙幣や貨幣というモノに価値があると思ってました。
しかし、お金が持っている価値というのは、他のコトを売買するための媒体に過ぎないわけです。
今、電子マネーの普及が進んでいますが、コトの価値から考えると、お金は発行体の信用の裏付けさえあれば、どんな姿形をしていてもよいはずなのです。
まとめ
物が豊かな時代になり、モノ売りからコト売りと言われていますが、そもそも我々はコトにしかお金を支払っていないのです。
そのコトが、モノやサービスという形に変えて販売されているだけだという感覚を持つことで、みなさんのお金の使い方も変わるでしょうし、その感覚がマーケターを目指す人にとっても大変有用なものになるでしょう。
今日から、みなさんも普段使っているお金が、どういうコトへの対価として支払っているかを考えてみましょう。
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