株式投資をしている方だと、金利の動向を気にしている方も多いことでしょう。
一般的には金利が上昇すると、株価が下落する傾向にあります。
これは預金金利が上昇すると、リスク資産である株式よりも預金の方が魅力的に見えてくるからだと言われています。
実は、ファイナンス理論を活用することで、このことを理論的に説明することができます。
この記事では、DCF法の概念を使って、金利の上昇と株価の下落の関係を解説していきます。
DCF法とは
DCF法とは、ディスカウント・キャッシュフロー法のことで、簡単に言うと将来に渡って獲得するキャッシュを全て現在の価値に置き換えて考えようという手法です。
今のお金と将来のお金は時間的な価値が異なるため、将来のお金を現在の価値に置き換えることで、お金の価値を正しく評価できるからです。
現在のお金は1年後、2年後と減るに従って以下のように現在価値が目減りしていきます。
以下の図で見ると、オレンジの部分が割り引かれた部分になります。
詳細はこちらのDCF法のページをご参照ください。
ここで、現在価値に割り引くときの係数を「割引率」といいます。
DCF法での株価算定
DCF法で株価を算定するときは、企業が将来に渡って生み出すキャッシュフローの現在価値の合計から企業価値を求めて、そこから株主価値を計算して発行株式数で割ります。
最終の計算式は、以下のようになります。
理論株価 = 株主価値 / 発行済み株式数
(株主価値は、会社が生み出すキャッシュフローの現在価値の合計に比例する)
詳細は以下のページに譲りますが、ここでは株主価値と会社が生み出すキャッシュフローの現在価値の合計(企業価値)が、ほぼ同じものだとしてご理解ください。
割引率は金利に影響する
次に割引率を考えてみます。
割引率はCAPM(キャップエム)理論を使って求めますが、少々複雑な計算になりますので詳細解説は別ページに譲ります。
大事なことは、割引率は預金金利や国債金利に比例して大きくなるということです。
大雑把にいうと、金利が1%のときの割引率が5%だとすると、金利が2%になると割引率は6%程度になるとご理解ください。(厳密に求めるにはきちんと計算する必要があります。)
割引率の詳細解説ページはこちらです
金利が上がると株価が下がるメカニズム
金利が上がると、株価は理論的にどのようになるのか、再度整理してみましょう。
まず、先ほどの式をご覧ください。
理論株価 = 株主価値 / 発行済み株式数
ここで、株主価値は、将来獲得できるキャッシュフローの累計に比例して、割引率(≒金利)に反比例します。
つまり、大雑把にまとめると以下のようになります。
理論株価
≒
( (獲得キャッシュフロー) / (金利) ) / 発行済み株式数
この式を見ると、もし獲得できるキャッシュフローが同じであれば、金利の上昇は株主価値の下落、すなわち株価の下落をもたらすことがわかります。
これが、金利上昇によって株価が下がるメカニズムです。(金利が下がれば、その逆で株価は上がります。)
実際の市場で起こること
実際の市場で起こることを短期と中長期に分けて考えてみます。
短期で起こること
短期的には、先ほど解説した理論のとおりの動きになることが多いようです。
つまり、金利の上昇が相対的に企業価値(≒株主価値)が低下をもたらして、実際に株価は調整・下落局面に向かうことが多いです。
理論株価
≒
( (獲得キャッシュフロー) / (金利)↑ ) / 発行済み株式数
※短期的には金利が上がると、株価は下がる傾向にある。
中長期で起こること
中長期に見ると、少し様相が変わってきます。
金利が上がるということは、お金の価値が相対的に下がっている状態を意味しています。お金の価値の下落は、物価の上昇という形で表れてきます。
お金の価値が下がり、物価が上昇すると、1つの製品・サービスあたりで企業が獲得できるキャッシュも増えることになります。
先ほどの式でいうと、分母も上がる変わりに、分子も上がることになるので、イーブンになる可能性があるわけです。
理論株価
≒
( (獲得キャッシュフロー)↑ / (金利)↑) / 発行株式数
※長期的には、金利が上がると、将来的な獲得キャッシュフローが増えるかもしれない
しかし、金利の上昇が本当に物価の上昇に結びつくかはわからないので、金利上昇以外の経済要因とのバランスで判断されることになるでしょう。
まとめ
この記事が、金利と株価のメカニズムを理解する際の1つの参考になれば幸いです。
- 株価は将来獲得できるキャッシュフローを現在価値に割り引いた企業価値から算出できる。厳密には、企業価値から求められる株主価値を発行済株式数で割ったものが理論株価になる。
- 金利は割引率に影響を与える因子である。金利が上がると割引率が上がる。
- 金利が上がる⇒割引率が上がる⇒キャッシュフローの現在価値が下がる⇒株主価値(企業価値)が下がる⇒理論株価が下がることになる。これが、金利が上がると株価が下がるメカニズムになっている。
- 短期的には上記メカニズムになるが、中長期的には他の要因も作用して金利の上昇と株価の下落が必ずしも一致しないことがある。
3種類の理論株価の算定方法を解説した記事はこちらです