IPOとは、Initial Public Offeringの略で、非公開企業の株式を新規に上場し、公開企業にすることです。
株式がIPOされることで、その会社の株式は市場で売買されるようになり、一般的には会社の株価は創業時の株価はもちろんIPO公募価格よりも高値になることがケースが多いです。
つまり、IPOは創業家にとっては莫大な利益を得るチャンスになりますし、公募をする一般投資家も利益を得られる可能性が高くなります。
この記事では、未上場企業のファイナンスの手段の1つであるIPOのメリット・デメリット、価格算定時の注意点などを解説していきます。
IPOのメリット・デメリット
会社がIPOをするということは、言い換えると市場の投資家がその会社に投資をする理由を整備するということになります。では、どのような会社のIPOに対して、市場の投資家から良い反応を期待できるのでしょうか。
市場の投資家は今後の会社の成長を見込んで投資をします。市場で調達した資金を使って、大きく成長する見通しを立てておく必要があります。つまり、あとは適切な資金さえあれば成長は間違いないということを投資家に説明できるようにしておく必要があるのです。
■会社にとって(○:メリット ×:デメリット)
○幅広くかつ大きな資金調達が可能となる
○企業の信用度、知名度が上がる(人材採用にも好影響)
○従業員の士気が上がる
○管理体制を充実できる
×公開準備コストがかかる(一般的に50~100百万円)
×IRのコストや公開維持コストがかかる
×広く買収のターゲットにさらされる
■株主にとって(○:メリット ×:デメリット)
○流動性が高まる
○資産価値増大の可能性が高まる
×会社が支払うコストの分だけ株主価値は低下する
■ベンチャー投資家にとって(○:メリット ×:デメリット)
○投資先の成功例として出資者にアピールできる(特にベンチャーキャピタルの場合)
○リターンを得る時期を分散化できる
(ただし、ロックアップ条項により一定期間は売却できないのが一般的)
IPOをする際の企業価値算定
IPOをする会社は、ベンチャー企業が多いため、安定的な利益が上がっていないと判断基準には適さないDCF法、EBITDA倍率よりもPERがよく用いられます。また、赤字続きで利益が十分でない場合は、PSR(売上高株価倍率)を用いる場合もあります。
PERやPSRを用いる場合、同じような業種やビジネスモデルの類似企業をピックアップして参考とするのが一般的です。しかし、ビジネスモデルが独特で類似する企業がいない場合は、投資家や主幹事証券会社に理解されにくく、低く価値算定されてしまう場合があります。
売り出し株数と公募価格の算定
売り出し株数と公募価格の決定には、関与者の利害を調整する必要があります。
■会社にとって
・できるだけ売り出し株数と公募価格を大きくして資金を多く調達したい
・ただし、応募数が少なく予定されていた資金を調達できない事態は避けたい
・また、現金が必要以上に余ることも避けたい
・株式を売り出しすぎて、支配権が希薄化することを避けたい
■既存投資家にとって
・できるだけ多く売り出して利益を確定させたい
■新規投資家にとって
・IPOにより利益を得たい
(短期投資家の場合、公募価格よりも初値が大きくなってほしい)
(長期投資家の場合、企業の成長力に期待する)
■主幹事証券会社にとって
・売れ残りのリスクを避けたい
・手数料は公募価格に比例するので、できる限り公募価格を上げたい
・公募価格に比べ初値が高くなりすぎることは避けたい
(あまりに乖離すると、主幹事証券会社としての評判を落とす)
これらの関与者の利害を勘案して、発行株式数と公募価格を決定します。公募価格を決める際は、新規投資家の応募が多くなるように、企業価値算定によりはじき出された株価にディスカウントレートが掛けられます。(一般的にはディスカウントレートは20%程度)
また、株式市場が冷え込んでいるときは、公募価格を低くせざるを得なくなるので、IPOはタイミングも重要となってきます。
IPOをする株式の種類
IPOをする場合、会社は次の手段によって株式を公開します。
・既存株式を売り出す
・新規に株式を発行する
このうち、会社に入ってくる資金は2番目の新規発行分によるものとなります。
IPOを成功させるには
ひとつは、ファイナンシャルパートナーの適切な巻き込みです。ベンチャーキャピタルや銀行、証券会社などです。こうしたプレイヤーを適切に巻き込むには、それぞれの利害関係を適切に分析する必要があります。たとえば、各プレイヤーは、どの程度のリターンを望んでいるのか、それぞれの株式市場の見方はどうかなどです。
また、IPO後の資本構成も考える必要があります。IPOによって、創業メンバー、ベンチャーキャピタル他公開前からの投資家、そしてIPO後の市場の投資家の持ち分比率がどのようになるのかをシミュレーションしておくことも重要です。ここには一律の答えはないので、創業メンバーの会社設立の目的・思い、ベンチャーキャピタルなど公開前からの投資家の投資目的をよく考えて個別に検討する必要があります。
EXITの方法としてのIPO
IPOは多くのベンチャー企業がEXITをするための手段として目標となるものです。IPOされれば、株式価値は何十倍、何百倍になり、たとえば、100万円の出資で始めた会社がIPOされることにより、100万円が何億円もの価値になるのです。
しかし、IPOには上であげたようなデメリットがあります。特にデメリット中で一部の創業メンバーが嫌うのは、公開することにより、株式が希薄化することで経営支配権が薄まることです。また、公開すると、一般投資家の意向にある程度沿って経営を進める必要もあり、仮に経営支配権を手放すことはなくても、創業時の思いを貫くことができなくなる可能性もあるのです。こうしたことから、会社が成長してもIPOを資金調達の手段としないという選択をとる会社もあります。
IPO以外のEXIT方法
IPO以外のEXITとして、最もよくあるのが、どこかの会社に売却することです。この場合、創業者の意向に沿った経営方針が売却後も担保されているのなら、売却後もその会社の傘下に残って経営を続けるということもあります。また、売却の場合、コントロールプレミアムにより、高い企業価値算定になることもあり、IPOよりも高い値段がつくこともあります。