事業の資源配分を考えるときに、事業の成功のために必須となる成功要因、KSFを特定することが重要な要素のひとつとなります。
この記事では、KSFの例をご紹介します。
KSFとは
KSFとは、Key Success Factorの略で、日本語では重要成功要因と訳されます。事業戦略におけるKSFは、事業を成功させるために必要となるファクター・条件のことです。
各種サイトでは、以下のように解説されています。
経営戦略を策定するうえでは、外部環境分析から事業におけるKSFを明確にし、内部環境分析から自社がKSFをいかに実現していくかという具体的な戦略立案につなげていく。
グロービス経営大学院より引用
「競争のルール」と呼ばれる業界における勝利条件を見極める外的環境分析、自社の強みを活かす選択をする内的環境分析、それらを突き詰め、その事業が成功か否かを見極めます。
HR Proより抜粋
これらの解説を見てわかるように、KSFの特定と、それを実現するための施策が事業戦略においては必要になってくるのです。
KSFの例
KSFは一般的にバリューチェーンに沿って考えられます。KSFの例には以下のようなものがあります。
KSFとなる要素 | 業界 |
調達 | 石油 |
研究開発 (基礎研究、設計技術) |
医薬品、航空機、精密機器 |
生産 (設備規模、製造技術) |
鉄鋼、造船、半導体、石油化学 |
品揃え | 百貨店、部品メーカー |
広告・宣伝 (ブランド、認知度) |
化粧品、日用品、菓子 |
販売 (販売力・販売網) |
自動車、保険、清涼飲料、家電製品 |
サービス | 法人向けOA機器、エレベーター |
これは言いかえると、その業界にいる会社がバリューチェーンのどこに力点を置くべきかを示しています。
たとえば、化粧品業界は研究開発よりも広告宣伝に重視をすべきで、一方で医薬品業界は広告宣伝よりも研究開発に力を入れるべきであることがわかります。
上に挙げたKSFの例は、ビジネスの機能をかなり大雑把に分けて論じていますが、実際のKSFはもっと詳細な機能・スキルである場合もあります。
たとえば、次のようなものがKSFのになり得ます。
KSF | 詳細 |
技術関連 | 技術調査能力 革新的な生産技術 |
生産関連 | 低コスト生産能力(製造方法、場所) 製造品質 労働生産性 生産の柔軟性 |
流通関連 | 強力なディーラー網 低コストのデリバリー能力 素早いデリバリー |
製品・マーケティング | 幅広い製品ライン 魅力的なデザイン 製品保証 |
人材・スキル | 優秀なタレント 品質管理ノウハウ 設計の専門知識 特殊技術を生み出す力 ヒット製品のアイデアを生み出す力 |
組織・プロセス・文化 | 効率的な商品開発プロセス 市場環境に応じ柔軟に意思決定する能力 現場に浸透している品質第一の価値観 |
KSFの考え方
KSFは最も重要な要因ということになりますが、どのように絞り込めばよいのでしょうか。絞り込み方としては、成功要因になりそうなものをいくつかあげて、その中で最も重要だというものを選ぶようにします。
そのときに重要となる要因が顧客ニーズにどれだけ合致しているかが重要になります。
化粧品業界と医薬品業界の例
たとえば、先の化粧品業界と医薬品業界を考えてみましょう。化粧品と医薬品というのはどちらも化学品です。化学品として同じように研究開発も必要で、日々新しい製品の研究をしていかなければなりません。
しかし、顧客ニーズを考えたときに、この2つの業界には大きな違いがあります。
医薬品業界は、顧客が抱える健康上の問題を根本的に解決することが求められる業界です。つまり、顧客は見た目やイメージ以上に、それが本当に効くかどうかに興味があるわけです。また、法規制をクリアするための臨床試験も必要になってきます。
一方で、化粧品業界はどうでしょうか。化粧品は同じ化学品ではありますが、顧客はその商品を使い続うことで自分が綺麗になるという未来が欲しいのです。そこは、臨床試験のレベルの話ではなく綺麗になる自分がイメージできるかどうかが先なのです。
そのために、化粧品業界は広告宣伝にお金を使って、まずはみんなに綺麗になった先のイメージを見せているわけです。同じ広告宣伝でも医薬品業界がその効能を訴求するのとは大きな違いがあります。
自動車業界の例
自動車業界で考えてみましょう。一部のマニアや車好きを除けば、顧客が自動車に求めるものは、性能や乗り心地よりも安心してサービスが受けられるかの比重が高いのです。なぜなら、自動車は買うときに支払うお金以上に、維持するのにお金がかかります。故障も発生します。
そのときに、大事になるのは困ったときにすぐに対応してくれる営業マンだったり、近くに販売店がありすぐに駆け込めるかどうかなのです。ですので、車の性能以上にこの販売網がKSFとして重要になってくるわけです。
まとめ
このように、KSFが見えてくると事業のどこに力点を置けばよいかが明確になってきます。そして、事業活動全体をそのKSFを中心とした設計にしていけばよいわけです。
みなさんの会社のKSFは何なのか。この機会に考えてみてはいかがでしょうか。
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