市場規模の計算方法として、以下6つの方法があります。
市場規模を求める6つの方法
- 論理式を作って求める(フェルミ推定)
- ATARモデルを用いて求める
- 経済指標との関連付けから求める
- 貿易調査を参考にして求める
- ロジスティック曲線を用いて求める
- BASSモデルを用いて求める
この記事では、マーケティング戦略を考える上で重要な市場規模の求め方について解説していきます。
方法1.論理式を作って求める(フェルミ推定)
論理式を作って、市場規模を出す事例として,次の計算式があります。
売上(市場規模) = 顧客数 × 1回あたりの購買数量 × 購買頻度 × 客単価
この計算式に基づけば、市場における顧客数と客単価がわかれば、市場全体の売上規模(市場規模)がわかります。
論理式の構築にはいくつかのパターンがありますが、このように未知の数字を既知の数字に分解しながら考えることをフェルミ推定と言います。
詳細は以下ページをご覧ください。
顧客数、購買数量、購買頻度を推定する方法
顧客の数を推定する方法には次のような方法があります。
ターゲット世代 × 購買意向率で求める
これだとターゲットとする世代を国あるいは地域の人口統計で求めて、実際に買いたい思う人の割合や購買頻度などをアンケート調査などで求めれば算出することができます。
類似商品の購入数を調査する
販売しようとしている商品の類似商品を販売量を調べるという手があります。こうすると顧客数、購買数量、購買頻度をひとまとめにして調べることができます。(ただし、それぞれの個別数値がわからないというデメリットがあります)
通行量 × 入店率で求める(顧客数)
飲食店などで用いられる方法です。
客単価を推定する方法
客単価を推定するには、次のような方法があります。
アンケート調査により妥当な単価を推定する
消費者向けの代表的な手法としてPSM分析があります。法人向けの場合だと地道な調査が必要になります。
代替しようとしている商品やサービスにかけているお金を調べる
たとえば、資料作成時間が半分になるソフトウェアの場合、1人当りの資料作成にかかっているコスト(人件費)がどの程度かがわかれば、そのまま単価として求めることができます。特に法人相手の商品、サービスの場合に有効です。
方法2.ATARモデルを用いて求める
ATARとは、それぞれ認知(Aware)、購買(Try)、利用(Avialable)、リピート(Repeat)の頭文字をとった造語です。
ATARモデルでは、それぞれのステージにどのくらいの人がいるかを計算することで、市場規模を算出できます。
ATARモデルの数式
ATARモデルにおける市場規模の計算式は、以下のようになります。
市場規模 = 潜在顧客 × AW × AV × T × R
AW: 製品を認知する割合
AV: 製品を購買可能な状態にできる割合
T: 製品を試しに1回買ってみる割合
R: もう一度製品を購買する割合
たとえば、AW=95%、 AV=70%、 T=13%、 R=65%ととした場合に、この数式は次のようになります。
シェア = 0.95 × 0.70 × 0.13 × 0.65 = 5.62%
この場合の各段階までの推移をグラフで表すと次のようになります。ATARモデルでは、通常AvialableとTryの間で大きな隔たりができるのが一般的です。
たとえば、潜在顧客が300万人、製品に支払う単価が1,000円だとすると市場規模は、
市場規模 = 500万人 × 1000円 × 5.62% = 約2億8000万円
となります。
ATARモデルは、AIDMAやAMTULに置き換えて応用することもできます。
方法3.経済指標との関連付けから求める
海外市場の市場規模を推定するときに使われるのが、経済指標との関連付けから市場規模を求める方法です。
ある商品の市場規模が、特定の指標と何か関係がある場合、先に参入している国や、特定のデータが明らかになっている国の市場規模から規模を推定することができます。
たとえば、X国の1人あたりGDPとX国の車の普及率に相関が見られそうだとわかった場合、Y国の車の潜在的市場規模は次のように求められます。
X国の車の普及率 / X国1人あたりGDP
= Y国の車の需要 / Y国1人あたりGDP
Y国の車の需要 =
X国の車の普及率 × Y国1人あたりGDP /X国1人あたりGDP
また、両者が単純な比例関係ではなく、ある関数になって表される場合は、
X国の車の普及率 = f (X国1人あたりGDP)
となる関数fを求めて、
Y国の車の需要 = f (Y国1人あたりGDP)
とすればよいことがわかります。
普及率を表す代表的な関数としては、後述するロジスティック曲線があります。
方法4.貿易調査を参考にして求める
方法3と同様に海外市場の規模推定で使われる方法で、国単位で市場規模を推定する際に使えるのが貿易指標です。
貿易指標を使う場合のロジックは、以下のとおり非常に簡単です。
ある国の市場規模 = 国内生産量 + 輸入量 - 輸出量
この手法は非常に簡単ですが、市場規模の推定として使う際に、分類が粗く必要なデータが取得できないことがデメリットとして挙げられます。
方法5.ロジスティック曲線を用いて求める
ロジスティクス曲線によって普及率を推定することで、市場規模を求めることもできます。
縦軸に市場規模や普及率(先の例ではGDP)、横軸に時間または時間に代替できる指標をとることで、そこから得られる曲線を使って市場規模を推定します。
通常こうした曲線は、市場導入期と市場成熟期に伸びが小さく、市場成長期に伸びが大きいという下の図のようなグラフになります。
これがロジスティック曲線です。
ロジスティック曲線の求め方
ロジスティック曲線による市場規模算出は、次の計算式で行われます。
Y = S / (1 + a × exp(-bt) )
Y:求める市場規模
S:その製品の限界市場規模
a、b:係数
t:時間(通常は年)
たとえば、日本におけるバイクの普及曲線をベースにして、ある国のバイクの市場規模を求めたい場合は、日本のバイクの普及曲線がどのようなロジスティック曲線で表されるかを考えます。
次に、ターゲットとしている国の限界市場規模(これ以上バイクが普及しないという飽和した市場規模)と、日本の普及曲線から求めた係数a、bを使って、その国の普及曲線を求められます。
2つ以上の国の普及曲線から、何パターンかの普及曲線を予測する場合もあります。
方法6.BASSモデルを用いて求める
BASSモデルとは、ロジスティック曲線に顧客の購買行動を加味して定式化した需要予測モデルのことです。
Frank Bassによって定式化されたことから、BASSモデルあるいはBASS diffusion model(BASS拡散モデル)と呼ばれています。
ロジスティック曲線モデルが、元々は人口増加や細菌増殖を説明するモデルであったのに対して、BASSモデルはロジスティクス曲線のモデルに購買要因を付加しているのが特徴です。
BASSモデルの例
BASSモデルの数式
BASSモデルによる市場規模算出は、次の計算式で行います。
S(t) = (m (p+q)^2 / p) * (exp[(-p-q)*t] / (1+(q/p) * exp[(-p-q)*t)^2
S(t):時間tにおける販売台数
m:その製品で考えられる最大累積販売台数
p:外的影響係数:まだその製品を使っていない人が、
広告などの外的な要素に影響されて利用を開始する見込み
q:内的影響係数:まだその製品を使っていない人が、
すでにその製品を使っている人からの影響(口コミなど)を受けて
利用を開始する見込み
t:時間(通常は年)
標準的なBASS曲線では、p=0.03、q=0.38として計算します。
BASSモデルの式でpやqの値を変えるとそれぞれ以下のようなグラフになります。
pが大きいほどピークの立ち上がりが早くなる、すなわち広告などの外的影響力が大きいことを示します。
qが大きいほどピークが鋭角になる、すなわち口コミなどで爆発的にその商品の販売が拡大することを示します。
ロジスティック曲線同様に、他の商品の普及状況を参考にしてp値やq値を与えることで、新商品の市場浸透スピードを類推することができます。
まとめ
以上、市場規模を計算・推定する方法について解説しました。
市場規模を求める6つの方法
- 論理式を作って求める(フェルミ推定)
- ATARモデルを用いて求める
- 経済指標との関連付けから求める
- 貿易調査を参考にして求める
- ロジスティック曲線を用いて求める
- BASSモデルを用いて求める
市場規模の計算方法にはここに挙げただけでも6つありますが、どれを使うとベストというのはありません。
相手が未知の数字であるならば、複数の方法で計算してみることで精度をあげていく必要があります。
これから未知の市場の規模を計算しようとしている方は、この記事を参考にして、ぜひいくつかのアプローチにトライしてみてください。
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