以下のページで価格戦略の基本を解説していますが、実際には特定のケース別にさまざまな価格戦略があります。
この記事では、より詳細な価格戦略の種類を解説していきます。
新商品の市場導入時の価格戦略
製品やサービスの差別化度合いと価格の関係は大雑把に言うと、下図のようになります。
一般的には、この中から上下の2つを除いた3つ、すなわち、積極的市場浸透価格、バリュー価格、プレミアム価格の中から選ぶことになります。
この中で、市場価格がまだ形成されていない新商品の導入期では、バリュー価格以外の価格である積極的市場浸透価格かプレミアム価格の政策が採用されるケースも多くあります。
積極的市場浸透価格のことをペネトレーション・プライシング、プレミアム価格のことをスキミング・プライシングと呼びます。
ペネトレーション・プライシング
ペネトレーション・プライシングとは、販売量が上がるに連れて、単位コストが大きく下がる場合に用いられる方法です。
まず、市場導入時にコストと同じかコストより低い価格を設定して、一気に販売拡大をして、規模の経済や経験効果を生かしてコストを下げたのち、利益を確保していきます。
メリット
早い時期に高シェアを獲得できたり、競合他社の参入意欲を減退させたり、製品を広く消費者に認知してもらえるというメリットがあります。
リスク
期待通りにコストが下がらないとか、設備投資や資金繰りの負担を抱えるといったリスクがあります。
ペネトレーション・プライシングができる前提
- 潜在需要が大きい
- 価格弾力性が大きい(価格を下げたときの需要が大きい)
- 規模の経済や経験効果を生かせる
- 競争相手に価格を下げるだけの力がない
かつて日本メーカーが海外に進出したときは、このペネトレーション・プライシングが用いられました。
価格弾力性とは
価格弾力性とは、価格変化に対する需要変化の度合いを示す指標です。
価格弾力性が小さい場合は、価格を変更してもほとんど需要は変化しませんが、価格弾力性が大きい場合は、価格を変更すると需要が大きく変化します。
一般的に、生活必需品や高級商品は価格弾力性が小さく、そこそこの価格で嗜好品の要素が強いものは価格弾力性が大きくなります。
需要の価格弾力性は、次の式で表現できます。
需要の価格弾力性 = 需要量の増加率 / 価格の低下率
この式は、価格の低下(または増加)1%につき、需要量が何%増加するか(または減少するか)を表しています。
スキミング・プライシング
スキミング・プライシングとは、ペネトレーション・プライシングとは逆に、初期に高価格を設定して、素早く市場から資金を回収するという方法です。上図の中で、プレミアム価格にあたる値付けになります。
メリット
高い収益をもたらす良質な顧客を獲得できる、価格弾力性の低い市場を作られる、早期に投資を回収できるメリットがあります。
リスク
比較的簡単に競合の参入を許してしまうとか、トータル収益が少ないまま終わってしまうというデメリットがあります。
スキミング・プライシングができる前提
- 商品自体に差別化要素がある
- 価格弾力性が小さい(価格を高くしても需要が減らない)
流通チャネルを通して販売する製品・サービスの価格戦略
法人向けの新製品やサービス(特にメーカーの製品)の場合、一般消費者向けで考えるポイントの他に、重要なポイントが1つあります。
それは、流通マージンの決定です。
流通業者は、その製品が顧客に受けるかどうかという視点に加えて、流通業者自身が儲かるかどうかにも注意を向けます。
たとえば、同じような機能の2つの商品があって、A社が作っている商品Aが定価5,000円、B社が作っている商品Bが定価4,500円だとします。
これらが並列で店頭に並んでいると、一般消費者なら迷わず商品Bを選ぶでしょう。
しかし、もしこの2製品のメーカーから販売店への卸値が同じだった場合、販売店は商品Aの製品を何らか理由をつけて消費者に売り込むかもしれません。
それは流通マージンが商品Aの方が大きくなるからです。
このように、法人を相手にする場合、取引先をどの程度儲けさせるかという観点が必要になってくるのです。
複数製品での価格戦略
価格設定を特定の製品単体ではなく、複数の製品との組み合わせで考えることによって価格戦略を幅を広げることができます。
抱き合わせ価格
複数の製品を抱き合わせて価格をつけることで、購入者に対してお得感を出す方法です。抱き合わせ価格の例としては次のようなものがあります。
- 食事やテーマパークへの入場券付のホテル宿泊プラン
- ドリンクとポテトがセットになったハンバーガー
- プリンタがセットになったパソコン
キャプティブ価格
キャプティブには虜という意味があります。
特定の商品の価格を下げて顧客を引き寄せるための価格設定で、製品単体としては利益が出なくても、来店時のクロスセル(ついで買い)を狙ったり、リピーターとなってもらい継続して来店してもらったりすることで利益を生む方法です。
たとえば、スーパーマーケットや家電量販店の特売品などが該当します。
法人相手でも初回限定価格や、エントリー商材を少し安めにしておくなどして、最終的にリピーターとなった段階で、継続的に買ってもらえる商材を儲かる設定にしておく場合があります。
たとえば、電子部品の販売で、最初は顧客専用カスタマイズ商品を低めの値付けにして、取引を獲得し、最終的に営業費がかからず粗利が高い汎用品も採用してもらい、継続的に取引する関係にするという場合が該当します。
消費者心理に基づく価格戦略
最後に、消費者心理に基づく代表的な価格設定を3つ紹介します。
端数価格
端数価格とは、端数の価格にすることで、割安感を出す方法です。
たとえば、価格を5,000円などピッタリの価格にするよりも、4,980円とか4,900円といった端数すると、消費者は実際の差額である20円や100円以上の安さを感じるようになります。
端数価格は、食品や雑貨などの日用品に加えて、サービス業でも頻繁に用いられる価格戦略です。
※端数価格が有効な商品の価格・需要曲線
威光価格
威光価格とは、製品やサービスの質やそれを消費することによるステータスの高さを消費者に感じさせられる価格です。
たとえば、ブランド品の場合、価格が安いと品質が劣るのではないか、もしくは偽者ではないかというイメージを消費者に抱かせてしまいます。
一方である程度高価であると、品質に対する信頼だけでなく、社会的・経済的地位が高いという顧客の自尊心を高める効果があります。
サービス業の例として英会話学校のレッスン料金があります。
レッスン料金があまりに安いとレッスンそのものの質に疑念を生じさせてしまいます。
ところが、ある程度高価な設定になっていると、顧客がレッスンの質は確かであると信頼してくれるだけでなく、そんなにお金を払って通っている自分はすごいというある種のステータスを感じるようにもなります。
※威光価格が有効な商品の価格・需要曲線
慣習価格
慣習価格とは、社会的な慣習に基づいて一定の価格が長期間に渡って維持されてきた価格です。
慣習価格がひとたび形成されると、それ以上の価格にすれば需要は一気に減少し、それ以下の価格にしても需要があまり伸びなくなります。
タクシーの料金や清涼飲料やパンの価格などが慣習価格の代表として挙げられます。
たとえば、菓子パンの慣習的価格は100~150円程度ですが、これより価格が高くなると需要は一気に減少するでしょう。
一方で、40円で売ったからといって大きな需要増は見込めないでしょう。
なぜなら、慣習的に100円~150円がパンとして品質を担保された価格であると認識されているからです。
※慣習価格が形成されている商品の価格・需要曲線
まとめ
以上、さまざまな価格戦略の解説でした。
- 新しい商品を市場導入する際の価格戦略として、ペネトレーション・プライシングと、スキミング・プライシングがある。ペネトレーション・プライシングは、安価で市場参入して一気に市場シェアをとる戦略、スキミング・プライシングは、高めの価格設定によって利益を確保する戦略である。
- 流通チャネルを通して製品やサービスを販売する場合、流通チャネルのマージンにも配慮した価格設定をする必要がある。
- 複数製品での価格戦略として、抱き合わせ価格とキャプティブ価格がある。
- 消費者心理に基づく価格戦略として、端数価格、威光価格、慣習価格がある。
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