これまでの以下のページでは、価格戦略の基本を解説してきましたが、サービスの価格は、物の価格と異なる特徴をもっています。
なぜなら、物の場合、作るための原価をある程度推定できれば、販売価格が安いか、高いかを判断できますが、サービスの場合、対象が無形のため、金額の高い安いの判断が難しいからです。言い換えるとサービスの価格設定は難易度が高いとも言えます。
また、従来型の価格設定ではない、革新的な値付けをする例もあります。
この記事では、そのサービスにおける価格戦略と価格モデルの革新について解説していきます。
サービスの価格がもつ機能
サービスの価格は主に4つの機能があります。この4つの機能を踏まえて価格を決める必要があります。
機能1.サービスレベルに対する情報提供機能
サービスの中には、他のサービスと直接比較することが難しいものがあります。そのときに、相対的な価格の大小は、顧客にサービスレベルの情報を提供する役割を果たします。
機能2.ブランドイメージ構築機能
一般的に高い価格は高級ブランドのイメージを、低い価格は安いブランドのイメージを顧客に与えることになります。
機能3.需要調整機能
サービスは、物と違って在庫ができないので、売れない分を明日売ったり、売れすぎたときに明日の分まで売ってしまったりということが起こりません。つまり、今日売る分は今日しか売れないのです。したがって、価格の付け方によって、適正な販売量を実現することで、売上、利益を最大化する必要があります。需要期は価格が高く、閑散期は価格が安いのは、適正な販売量を維持するための施策というわけです。
機能4.顧客のスクリーニング機能
サービスの場合、顧客そのものがサービスの品質を決める場合もあります。たとえば、数人でクラスを構成する英会話教室の場合、講師だけでなく顧客の能力ややる気がサービスの品質における重要な要素になります。高めの価格設定にした場合、何となく通ってみようという意識の低い顧客を排除でき、高い価格を払ってでも参加したいというやる気のある顧客が多くなるため、他の顧客に提供するサービスレベルも大きくアップします。
サービスにおける価格の決め方
サービスにおいては、コストプラスの価格設定という発想は皆無に近く、顧客にとって主観的な価値認識に基づいて価格を決定することがほとんどです。そのため、顧客の価値認知と価格をできる限り結びつけることが重要です。
また、顧客と継続的に接触するサービスの場合、その顧客の生涯価値(LTV:Life Time Value)から価格設定をすることが重要となります。
LTVの参考記事はこちら
たとえば、銀行の場合、口座残高の少ない顧客は、口座維持の手間の割に、大した実入りを期待できません。付随したサービスや金融商品の購入することを期待できない、つまりクロスセル(同一顧客に多数の商品を販売すること)の余地がないからです。
では、口座残高の少ない人の取引手数料を上げてしまうとどうなるでしょうか。口座残高の少ない顧客は大半が若い顧客です。手数料UPは、そうした若い顧客が将来優良な顧客になる可能性を棄ててしまうことになります。
このように一度サービスを利用すると、長期的にサービスを利用する可能性がある顧客をもつ企業の場合、生涯価値の考え方に基づく、価格設定をする必要があります。
サービスにおける価格モデルの革新
これまで、価格戦略におけるさまざまな値付け方法を紹介してきました。その中でも、理想的なのが、多くの買い手を引き付ける値付けを先に決めて、そこから必要な利益を差し引いて目標コストを決めて、製品やサービスを作っていくという形です。
目標コストを実現するためには、、業務オペレーションを効率化し、バリューチェーンにおけるコスト革新をしたり、他者との提携を通じてコスト革新を図るというやり方があります。
しかし、これらの方法でも、目標コストに到達しない場合には、価格モデルそのものを革新するという方法があります。
サービスにおける価格 3つの革新モデル
価格モデル革新の事例として、代表的なものを3つあげます。
レンタルビデオ
市場導入期におけるビデオテープは、非常に高価なものでしたが、レンタルサービスにより、1回数百円まで価格を抑えることを可能にしました。これにより市場は急成長しました。
カートリッジビジネス
プリンタは、本体を利益がほぼゼロか赤字の価格設定にして、利益率の高いカートリッジを使ってもらうことで、儲けがでる仕組みにしています。(携帯電話も本体価格をタダ同然にして、基本料金と通話料で儲ける仕組みにして大ヒットとなりました)
サブスクリプション
近年、ソフトウェアを中心に浸透している価格モデルがサブスクリプション型の課金です。サブスクリプションとは、購読という意味ですが、もう少し意訳すると継続課金という意味になります。
新聞の購読料や携帯電話の月額使用料などが昔からあるサブスクリプションモデルとして有名ですが、最近はソフトウェアに対して、サブスクリプション型で使用した分だけ課金するという形になってきています。
サブスクリプションの詳細は以下の記事にも記載しています。
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