雑記

囚人のジレンマとは【ビジネスや日常生活の具体例付で解説】

囚人のジレンマとは、ゲームの理論に登場する最も有名なケースのひとつで、ゲームの参加者が常に利得の大きい選択肢を選ぶと、参加者が協力した場合よりも悪い結果を招くことを示したケースです。

囚人のジレンマはゲームのモデルとなっているだけでなく、実際のビジネスシーンでも多数の事例があります。

  • もしすべての会社が一斉に価格競争をやめたら、どの会社も儲かるはずなのに、なぜそうならないのか?
  • なぜ、トイレットペーパーのような日用品の買い占めが起こってしまうのか?

これらの状況は、ゲーム理論に出てくる「囚人のジレンマ」を用いることによって説明できます。

この記事では、その囚人のジレンマについて、ビジネスや日常生活の事例を交えて詳細を解説していきます。

囚人のジレンマの概要

囚人のジレンマは、カナダの研究者であるアルバート・タッカーが提唱した「prisoners’ dilemma」が由来になっています。

囚人ジレンマに登場するのは、容疑者Aと容疑者Bの2人です。

2人は犯罪の容疑で警察に捕まっているものの、2人が罪を犯した決定的証拠がないため、2人を別々の部屋で尋問します。

AとBが持っているのは「自白する」「自白しない」という2つの選択肢です。

2人の選択の仕方によって、2人の懲役年数は次の表のようになります。

容疑者B
自白しない 自白する
容疑者A 自白しない A:懲役2年

B:懲役2年

A:懲役30年

B:懲役0年

自白する A:懲役0年

B:懲役30年

A:懲役5年

B:懲役5年

上の表を解説すると次のようになります。

  1. A、Bが両方とも自白する場合 → ともに懲役5年
  2. A、Bが両方とも自白しない場合 → ともに懲役2年
  3. A、Bが片方だけ自白した場合 → 自白したほうは無罪、自白しないほうは懲役30年

囚人のジレンマは、パレート最適とナッシュ均衡の相違を生み出す

このケースにおいて双方が最も得をするのは、お互いに自白しない状態です。

2人の罪は懲役2年と、全ての選択肢の中で最も年数が短くなります。

このように、双方にとってベストな選択をすることをパレート最適と言います

このケースでは、パレート最適が実現できればよいのですが、現実にはそれが起きません。

なぜでしょうか?

このケースを容疑者A、Bそれぞれの立場で考えてみましょう。

まず、容疑者Aにとっては、以下のようになります。

容疑者B
自白しない 自白する
容疑者A 自白しない A:懲役2年 A:懲役30年
自白する A:懲役0年 A:懲役5年

この表を見ると、以下のことがわかります。

  1. Aが自白しないとき → Bが自白しないと懲役2年、Bが自白すると懲役30年
  2. Aが自白するとき → Bが自白しないと懲役0年、Bが自白すると懲役5年

容疑者Aから見ると、容疑者Bが自白するかしないかに関係なく、自白した方が相対的に罪が軽くなるのです。

このように、相手の選択に関係なく、自分の選択によって優位が確保できる状況のことを絶対優位の戦略といいます。

この場合、Aにとっては自白することが絶対優位の戦略になります

一方で、容疑者Bの立場から見ると、以下のようになります。

容疑者B
自白しない 自白する
容疑者A 自白しない B:懲役2年 B:懲役0年
自白する B:懲役30年 B:懲役5年

容疑者Bから見ると、容疑者Aが自白するかしないかに関係なく、自白した方が相対的に罪が軽くなるのです。

つまり、Bにとっても絶対優位の戦略は自白することです

したがってこのケースでは、容疑者A、B双方にとって最も優位な選択は「自白する」になります

このように、お互いが最適な戦略を取り合う状況のことをナッシュ均衡と呼びます

このゲームにおけるナッシュ均衡は、容疑者A、Bともに自白して刑期が懲役5年に落ち着きくことです。

このゲームの面白いところは、双方が「自白しない」というパレート最適が存在するにもかかわらず、双方とも自白するというナッシュ均衡に陥ってベストな結果にならないところです。

このように、双方が絶対優位な戦略をとるというナッシュ均衡を目指しているのに、双方にとってベストな選択であるパレート最適を選べないゲームのことを「囚人のジレンマ」と呼びます。

囚人のジレンマは、パレート最適とナッシュ均衡に相違が生まれてしまう状況のこととも言えます。

もし、このゲームで事前に口裏を合わせることができて、A、Bともに自白しないという約束をしたとしても、A、Bがどちらかが裏切って自白すれば無罪になるというメリットがあります。

このように常に裏切りの要素を含んでいる状況では、結果として囚人A、Bは絶対優位の戦略を取らざるを得ず「ともに自白する」という結果を招いてしまうのです。

この記事を引用して頂いた方が、以下に書かれているとおりです。

囚人のジレンマ:実ビジネスでの具体例

日常における囚人のジレンマの代表例として、「企業間の熾烈な価格競争」や「日用品の買い占め」などが挙げられます。

いずれも本来ならゲームの参加者全員が得する方法があるにもかかわらず、個々の参加者が絶対優位の戦略をとる(つまり裏切る)ことで、参加者全員にとっては不利益を生む状態になってしまうのです。

価格競争の例

企業間の熾烈な価格競争は、囚人のジレンマによって引き起こされます。

たとえば、ある業界でP社とH社の2社が競争をしているとします。

両者の戦略は、値下げしない、値下げするの2択で、それぞれの組み合わせで利益は次のようになるとします。

H社
値下げしない 値下げする
P社 値下げしない P社:100

H社:100

P社:70

H社:110

値下げする P社:110

H社:70

P社:90

H社:90

上の表を解説すると次のようになります。

  1. P社、H社が両方とも値下げする場合 → ともに利益90
  2. P社、H社が両方とも値下げしない場合 → ともに利益100
  3. P社、H社の片方だけ値下げした場合 → 値下げした方が利益110、値下げしなかった方が利益70

パレート最適とナッシュ均衡に相違が生じる囚人のジレンマが起きています。

P社とH社の双方にとって最適な選択は、双方が値下げせずに100の利益を確保することです

しかし、どちらかが値下げした瞬間に、値下げした方は利益が増えて、値下げしなかった方は利益が減るので、結果としてどちらも値下げするという方向に向かってしまいます。

日用品の買い占めの例

日用品の買い占めも、囚人のジレンマのメカニズムが働くことで起こります。

たとえば、オイルショックのときや感染症の蔓延のときに、トイレットペーパーが市場から消えることも囚人のジレンマの事例です。

仮に供給不安が起こっても、1日のトイレットペーパーの消費量が劇的に増えることはないはずなので、みんなが冷静になって必要な分を必要なときだけ買えば、みんなにトイレットペーパーが行き渡るようになります。

しかし、現実はそうはなりません。

なぜなら、みんなが少しずつ買うことがよいとわかっていても、自分だけのことを考えたら買い占めてストックしておいた方がよいからです。

先ほどの囚人のジレンマの表を用いると、次のようになります。(数字は行動によって得られる利益の度合いとして考えてください)

Bさん
買い占める 買い占めない
Aさん 買い占める Aさん:80

Bさん:80

Aさん:200

Bさん:0

買い占めない Aさん:0

Bさん:200

Aさん:100

Bさん:100

ここでもお互いが絶対優位の戦略をとると、買い占めるという方向になってしまいます。

上記の表では2人の事例として単純化していますが、何百人、何千人のゲームになると、わずかな人が裏切るだけで参加者全員が買い占めに走ってしまうのです。

感染症でトイレットペーパーが市場から消えたときに、以下のような話を聞きました。

「感染症の影響でトイレットペーパーの工場の生産が止まって、供給できなくなる」というデマが流れたのですが、並んで買っている人の中にはデマだとわかっている人もいたのです。

しかし囚人のジレンマに陥いると、たとえデマだとわかっていても、誰かが抜け駆けして買い占めるリスクがあるので、列に並んで買えるだけ買うという行動をとってしまうのです。

囚人のジレンマを回避・解決する方法

囚人のジレンマはどうすれば回避・解決できるのか?

囚人のジレンマの解決方法は、以下3つあります。

囚人のジレンマを回避する方法

  • 規制を設ける
  • 裏切りに対して制裁を課す
  • 日常的に協力関係を作る

規制を設ける

業界団体で規制を儲けて、競争が行きすぎないようにしている例があります。

たとえば、理髪店やタクシーなどは業界団体がルールを作って、参加している事業者が囚人のジレンマに陥るのを防いできました。(近年では、理髪店だとQB House、タクシーに対してはUberのような業界破壊者も表れています。)

トイレットペーパーの例では、買えるのは1人1袋までなどと規制をかけることで、囚人のジレンマに陥ることを防ごうとしました。

裏切りに対して制裁を課す

参加者が裏切りに大きなインセンティブを感じると囚人のジレンマに陥ってしまうので、その裏切りに対して制裁を加えることで囚人のジレンマを回避できます。

冒頭の容疑者の例で、お互いで自白しないと約束していたのに、容疑者Bが裏切って自白した場合に、容疑者Aの仲間が容疑者Bを襲撃するという制裁があるとしらどうでしょうか。

容疑者Bは簡単に裏切れなくなります。

日常的に協力関係を作る

日常的に協力関係を作っておくことで、囚人のジレンマを回避する方法もあります。

日頃から相手と信頼関係を築いておき、裏切らないことで双方とも利益を得られることを確認できていれば、お互いが裏切る必要がなくなるからです。

また、その関係が継続的な取引につながる関係だと、裏切ったときに大きなデメリットが生じるでしょう。(広義の意味では、規制や制裁の1つなのかもしれません)

もちろん企業間でカルテルのようなことをすると独占禁止法に抵触してしまいますが、抵触しない範囲で協力関係を築いておけば、囚人のジレンマへの大きな抑止力になります。

まとめ

以上、囚人のジレンマの解説でした。

  • 囚人のジレンマとは、お互いが絶対優位な選択をした結果、2人にとって最良の結果にならない状態のことである。言い換えると、パレート最適とナッシュ均衡に相違が生じている状態になること。
  • 囚人のジレンマは、日常の至るところで起こっていて、価格競争、不安時の日用品買い占めなどが典型例として見られる。
  • 囚人のジレンマに陥らないためには、「規制」、「裏切りに対する制裁」、「日常的な協力関係」が大事。