組織マネジメントにおける知識創造から体系化までをまとめたフレームワークにSECIモデルがあります。
今回は、発案者の1人である野中氏が著書やセミナー等で語っていることも参考にしながら、SECIモデルとは何かをまとめていきます。
SECIモデルとは
SECIモデルとは、ー橋大学の野中郁次郎氏と竹内弘高氏によって考案された組織におけるナレッジマネジメント(知識創造から体系化)のフレームワークです。(SECIモデルの読み方は、セキモデルです。)
SECIは、モデルの中に出てくる共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)のそれぞれの頭文字をとっています。
考案者である野中氏と竹内氏によると、暗黙知と形式知は以下のように分類されています。
暗黙知 | 形式知 |
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SECIモデルの4つのフェーズ
SECIモデルでは、知識を暗黙知から形式知に転換するステップを4つのフェーズに分けて考えています。
このステップを繰り返し回していくことで、組織として戦略的に知識を創造しマネジメントできるとしてしています。
共同化(Socilization)
共同化とは、暗黙知から暗黙知へと転換するフェーズです。
言語化が困難で、身体的なコツに結びつく暗黙知同士を組織内で共有するプロセスです。
共同化の中で重要なのは、暗黙知のベースとなっている個々の体験を複数人の共感へと発展させることです。
たとえば、暗黙知を持っている人の行動を真似るとか、同じものをその場で一緒に見聞きするといったことです。
発案者の野中氏は、共同化を成功させるには、当事者たちが主観と主観をぶつけう知的コンバット(知的闘争)が重要であると説いています。
野中氏は記事内で、このように述べています。
全身全霊で向き合うためには二人、ペアであることが最適です。同時に、双方の目線が上向きや下向きではなく、真っ当に向き合っていることが大事です。それでもそう簡単にはコンセプトは出てきません。「知的コンバット」を何度も繰り返す必要があります。
表出化(Externalization)
表出化とは、暗黙知から形式知へと転換するフェーズです。
共同化の段階では、単に体験として共有しただけに過ぎませんが、暗黙知を明確な概念として表現することで誰もが見える形式知の形にできます。
最初は仮説として形成され、議論が深まるに連れて次第に形式知として明示されるようになります。
連結化(Combination)
連結化とは、形式知から形式知へと転換していくフェーズです。
形式知同士を組み合わせると、それは次第に新たな知識体系を形成し、そこから新たな形式知が生まれます。
たとえば、データベースとネットワークを用いて情報を体系的な知識へと変換することは、連結化の典型例と言えます。
内面化(Internalization)
内面化とは、形式知を技術、商品、ソフト、サービスなどで具現化し、暗黙知へと落とし込む、組織の血肉にするステップです。
形式知が、組織メンバーに内面化されることで、メンバーと所属する組織の知的資産になります。
そして、内面化された暗黙知を再び共同化、表出化を経て形式知にするというサイクルを繰り返すことで、組織内でのナレッジをより強固なものにすることができます。
SECIモデルを形成する場
SECIモデルでは、共同化、表出化、連結化、内面化をそれぞれ活発化させるための機会として4つの「場」を提唱しています。
創発場
創発場とは、暗黙知を共有する場です。
たとえば、身振り手振りで何かを教える、お互いの表情や鼻息、熱量を感じながら考えをぶつけ合うといった場です。
創発場では、参加者の共感がポイントになります。
対話場
対話場とは、暗黙知を形式知にする場です。
共同化(創発場)によって形成されたナレッジの仮説をベースに、各自が対話を通じてその暗黙知を第三者でもわかるようにコンセプトにしていきます。
創発場よりもさらに大きなワークショップ等が対話場として活用されます。
対話場では、概念化が重要なポイントです。
システム場
システム場とは、形式知を形式知にする場です。
対話場によって形式知にされたものを組織共通のガイドラインに落とし込んで、第三者(他部署や国を超えた組織など)がアクセスできるような状態にします。
システム場は、既知の形式知と新しい形式知を統合して新たな形式知へと発展させる場にもなります。
システム場では、形式知を理論に落とし込むことがポイントです。
実践場
実践場とは、形式知を暗黙知にする場です。
システム場によって組織共通の形式知になったものを実践し、組織として身体化していきます。
ナレッジを扱うのは人間なので、単に形式知を伝達して終わるのではなく、経験的・人間的な要素を合わせることで暗黙知として移転できるようになります。
たとえば、形式知を元にしたルールを作っても、運用場面では経験的な要素や、状況ごとの臨機応変な対応が要求される場合もあります。
そうした要素を加味して暗黙知にしていくのが実践場の役目です。
実践場では、文字通り実践がポイントになるのです。
SECIモデルとイノベーション
野中氏は、イノベーションとはSECIモデルのスパイラルであると結論づけています。
不確実な世界の中では、SECIモデルを高速回転させて常にBetterに向かって試行錯誤することが大事で、そのプロセスこそがイノベーションへとつながっていくのです。
さらに、その中で暗黙知や形式知といった知識を知恵、すなわち実践知へと進化させていくことが重要で、SECIモデルを実践知レベルに進化させていく上で重要となる実践知リーダーシップに関して、以下6つのポイントを挙げています。
- よい目的を追求する:何がGOODかを追求する
- 現実を直観する:ありのままの現実を見る
- 場を作る:タイムリーに場を作る
- 直観の本質を物語る:直観の本質を概念化し、1つの物語にする
- 物語を実現する:絶対にやり抜くという意思を持つ
- 実践知を自律分散する:実践知を組織で共有のものとする
SECIモデルのデジタルでの運用
SECIモデルが発表されたのは1994年ですが、そこから世の中の技術動向は大きく進化しており、今やオンラインで会議をしたり、仕事をしたりするのが当たり前になっています。
野中氏は、こうした動向を踏まえて、SECIモデルの各フェーズのデジタルでの代替可能性についても言及しています。
それをまとめると、以下のように共同化以外はデジタルによる支援、または代替が可能としています。
野中氏は、SECIモデルの中で共同化における知的コンバットの重要性を再三説いています。
双方が感じた異なる直観を、真剣勝負で何度もぶつけ合いながら、ようやく「こうとしかいえないよね」というコンセプトにつながっていくという感じです。この「共同化」のプロセスがない限り、組織で「知」を生み出す、イノベーションが起こるということはあり得ません。
デジタル化の時代においても、知的コンバットを必要とする共同化だけはデジタルでの支援や代替は不可能だと考えているのです。
そこには、野中氏がこのモデルを考える際の根本としている以下の思想があります。(野中氏があるセミナーで言っていたことです)
- 戦略とは生き方であり、ワクワクしなれば戦略ではない
- 最初に必要なのは理論ではなく思いである
共同化においては、こうした思い、ワクワク、熱量などを感じながら議論をする必要があるので、デジタルでは難しいと考えているのでしょう。
SECIモデルを実践する企業:エーザイ
SECIモデルを実践する企業として知られているのが医療用薬品を開発する製薬会社エーザイです。
野中氏いわく、世界で初めてSECIモデルを実際に取り入れた会社だそうです。
以下、エーザイの取り組みの一例です。
- 共同化(創発場):高齢者の疑似体験や病棟実習など(全社員が業務時間の1%を患者と共感体験をするようにルール化)
- 表出化(対話場):商品開発会議や地域住民とワークショップなど
- 連結化(システム場):グローバルでの知識体系の構築やベストプラクティスの共有、市民フォーラムの実施など
- 内面化(実践場):研究会やプロジェクトによる日常業務での活用のフォロー
なお、エーザイが共同化において患者の姿勢を重視する姿勢は、エーザイの企業理念(以下抜粋)から来ているのでしょう。
本会社は、患者様とそのご家族の喜怒哀楽を第一義に考え、そのベネフィット向上に貢献することを企業理念と定め、この企業理念のもとヒューマン・ヘルスケア (hhc) 企業をめざす。
エーザイ株式会社定款より抜粋
エーザイのホームページでも、「エーザイの知識創造型経営」として、SECIモデルを取り入れたイノベーションの創出について言及されています。
まとめ
以上、SECIモデルについての解説でした。
- SECIモデルとは、組織におけるナレッジマネジメントのフレームワークである。
- SECIモデルは、共同化(Socialization)、表出化(Externalization)、連結化(Combination)、内面化(Internalization)のそれぞれの頭文字から名付けられている。
- 組織のナレッジは、共同化、表出化、連結化、内面化というステップを経て構築・管理されていく。それぞれを支援する場として、創発場、対話場、システム場、実践場を定義している。
- 発案者の野中氏は、SECIモデルを高速で回すことはイノベーションそのものであるとしている。
- SECIモデルの運用においては、デジタルでの支援・代替は可能であるとしながらも、思い、ワクワク、熱量を感じながら議論をする必要がある共同化だけは支援・代替が不可能としている。
- SECIモデルを世界で初めて導入し運用しているのがエーザイ。共同化における基本姿勢はエーザイの企業理念とつながっている。