スマイルカーブとは、電子産業や産業機器分野を中心とした製造業における付加価値構造を表す曲線のことで、バリューチェーン上の付加価値の高低を一目で表したグラフです。
バリューチェーンの真ん中に位置する製造と組立の付加価値が最も小さく、両端の研究・開発と販売・アフターが最も大きくなり、その曲線が放物線状に広がることからスマイルカーブと名付けられています。
製造業がこのような付加価値構造になることを「スマイルカーブ理論」という場合もあります。
各機能における付加価値構造
ここからは、電子産業における各機能の付加価値について、スマイルカーブに基づいて解説していきます。
- 製造・組立
- 研究開発・ブランド
- 流通チャネル
- 販売・アフター
製造・組立
製造・組立は、技術の進歩に伴い、先進国以外でも可能になってきているため、大きな付加価値がとりにくくなっています。
また、PCのように部品のモジュール化、標準化が進むと、組立自体に大した技術が必要なくなるので、高度な技術が必要なくなります。
そうなると、東南アジアなどの低賃金エリアで生産できるようになり、コスト競争になっていきます。
研究・開発、ブランド
研究・開発やブランドといったコンセプチュアルな部分と、流通、販売、アフターサービスは、グローバル化が難しい部分であるため、そこを担うプレーヤーには大きな付加価値が入るという構造になるというわけです。
たとえば、顧客の要望が多様化している中で、研究、開発といった部分は、その商品をヒットさせるかどうかを決定づける要素を持っています。
流通チャネル
流通チャネルは構築に時間がかかるという意味で付加価値の高い部分になりますし、販売チャネルの説明なしでは買えないような商品については、その部分がさらに大きな付加価値になります。AMAZONは圧倒的な流通チャネルを確保することで大きな利益を挙げています。
販売・アフター
販売・アフターについても多くの商材で個別対応が必要になるため、付加価値の高い部分です。特に供給者と顧客の間の情報格差が大きい場合、そこには大きな付加価値の発生する余地があります。
また、顧客にとって購買頻度の低いもの(たとえば、家、車、結婚式など)は、原価構成を把握する術がなく高い利益率にしても顧客が購入しれくれる構造を作りやすくなります。(もちろん競争状態によって変わりますが)
電子業界における資源配分の例
製造を持たずにスマイルカーブ上で付加価値の高い研究開発、デザインに特化して高い利益率を実現しているのが、Appleです。
しかし、スマイルカーブに限らず、バリューチェーン分析でも言えることですが、必ずしも「付加価値が高い=やる」、「付加価値が低い=やらない」とはなりません。
一般的な付加価値構造を理解した上で、事業戦略としてはあえて付加価値の低いところを攻めるという意思決定もあり得ます。
実際、アジアのEMS(電子部品の受託生産)のように、スマイルカーブの示唆とは逆張りをして、本来は付加価値が低いはずの電子部品の製造・組立の部分に巨大投資をするというケースがあります。
DELLの成功モデルもスマイルカーブとは逆行したものでした。
端的に言うと、この記事を引用頂いた以下のコメントのとおりでしょう。
TSMCの独走。「スマイルカーブ」という言葉が流行ったけど、この言葉に大した意味がないことを示してる。
大切なのは注力する場所よりも、どの場所でもいいから「競争を避ける(勝ち抜く)」かということ。https://t.co/AeyTCfoDg9https://t.co/dTGcjsdUlh pic.twitter.com/3JQYJwRbGY
— すぽ (@spo_toushi) January 29, 2021
まとめ
スマイルカーブは、電子産業における付加価値構造を示すカーブですが、電子産業以外にも同じような構造を持つ業界があります。
典型的なスマイルカーブを考えてみることは、バリューチェーンの付加価値議論をさらに深めるのに有効です。
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