日々の仕事の中で、こんなことを感じている人も多いと思います。
一生懸命仕事をしているのに、業績が一向によくならないのはなぜだろうか?
実は、TOC(制約理論)を学ぶことで、こうした疑問を解消できるのです。
この記事では、私が実際に使ってみた感触も踏まえながらTOCについて解説していきます。
TOCの考え方を習得することで、さらに仕事ができる人に近づいていきましょう。
▼TOCの基礎を理解できる漫画▼
TOCとは
TOCとはTheory of Constraintの略で、70年代後半にイスラエルの物理学者エリヤフ・ゴールドラット氏によって提唱された理論で、概要は「ザ・ゴール」という本にまとめられています。
TOCでは、ビジネスプロセスの中にある「つながり」と、プロセスごとの能力の「ばらつき」を前提として、その中に必ず存在する制約(ボトルネック)をに着目した理論です。
制約(ボトルネック)を見つけ出した上で、それを全体最適の観点から活用してビジネスプロセスにおけるスループット(売上 - 真の変動費)を高めることを目標にしています。
なお、「ザ・ゴール」は、アマゾンCEOのジェフ・ベゾスが選ぶ経営幹部必読の3冊のうちの1冊に選ばれています。
TOCで重要なプロセスにおける制約(ボトルネック)
会社におけるビジネスプロセスは必ず部門同士・人同士が連動しています。
その中で、各プロセスにおける能力が次のような場合に、ビジネス全体のアウトプットがいくらになるかを考えてみます。
この場合、プロセスの中で最小能力である12が、このプロセス全体のアウトプットと同じになります。
言い換えると、この12の能力をもつプロセスが制約(ボトルネック)となっているわけです。
もし、ここで20や18のプロセスに対して改善を試みて、能力が22になったとしても、制約である12のプロセスが改善されない限りアウトプットは増えません。
むしろ、プロセス全体としては、同じ能力なのに、20を22にするための改善コストや維持コストが余分にかかってしまいます。
このように連動したプロセスの中で能力の高低があるとき、次のことが言えるのです。
- プロセス全体のアウトプットは能力の低い側で決まる
- それ以外の改善は、ビジネス上は何もインパクトを生まず余分なコストだけがかかる
こんなの当たり前の話でしょ?
話を聞くだけだとそう思うかもしれません。
しかし、実際のビジネスプロセスの中では、この制約(ボトルネック)を特定しないまま、個別最適の改善に取り組んでいるケースがたくさんあるのです。
特に各部門・部署が縦割りになっていると、その部門・部署のパフォーマンスだけ注目されてしまいます。
上の例にある20や18のように制約になっていない部署が一生懸命改善を図っているのに、ビジネスプロセス全体としては何もよくなっていないという事態が起こるのです。
これこそが、冒頭に書いた
一生懸命仕事をしているのに、業績が一向によくならないのはなぜだろうか?
に対する答えなのです。
会社の中にいると部署ごとの改善発表で、「こんなに改善できました!」というプレゼンをよく見ますが、実際には会社全体で見ると一向に業績改善していないケースも多いのではないでしょうか。
制約(ボトルネック)を特定せずに、改善活動をしているので、会社全体としての成果につながっていないのです。
この点に関して、ゴールドラット氏は以下のように述べています。
無駄をなくそうと、一つひとつの工程の能力を別々に観察して削ってはいけません。システム全体を最適化するように努力しないといけないんです。
出典:ザ・ゴール
繰り返しますが、TOCで教えてくれる大事なことは、
- プロセスの制約(ボトルネック)を改善すれば、プロセス全体のアウトプットは改善する
- 制約(ボトルネック)以外のところを改善するのは時間や経費の無駄になる
ということです。
TOC理論を説くエリヤフ・ゴールドラット氏は、著書の中で以下のように書いています。
ボトルネックで一時間、作業時間が失われれば、それはシステム全体で一時間失ったに等しい。非ボトルネックで一時間増やしたところで、それは妄想にすぎない。
出典:ザ・ゴール
制約(ボトルネック)でないところに時間を費やすのは、妄想とまで言っています。
一方で、このようにも書いています。
ボトルネックは単に現実なんだ。ボトルネックが存在するところでは、生産システムから市場までのフローをボトルネックを使ってコントロールすべきだと提案しているだけだ。
出典:ザ・ゴール
TOCを適用するプロセス
TOCの考え方では次の5つのステップにしたがって、改善を図っていきます。
ステップ1.プロセスにおける制約(ボトルネック)を見つける
まずはプロセスにおける制約を発見するところからスタートです。
先の例でいくと、能力が12のところを見つけることです。
ステップ2.プロセスにおける制約(ボトルネック)を活用する方法を考える
次に考えるのは、制約を100%活用することです。
制約となるプロセスといえども、実際は70%、80%の稼働率であるというのは、よくあることです。
先の例だと、12の能力を持つプロセスが実際は8や9という状態です。
まずはそれを100%の12にする改善を図ります。
たとえば、ある会社の制約が図面を作成する人だとします。
その場合、図面を書く人には、図面を書くことだけに集中してもらい、その他全ての雑多な業務から解放してあげます。
これが、制約を徹底活用することです。
ステップ3.他のプロセスを制約(ボトルネック)に従わせる
次に他のプロセスを制約に従わせることを考えます。
制約が見つかるとすぐに改善を図りたくなるのですが、今の制約を徹底活用することを考えて、プロセスを制約に従属させることが重要なのです。
先の図面作成の例だと、図面を書く人以外の人が、その雑多な業務を助けてあげることで、図面を書く人がその価値を最大限会社に提供できるようになります。
これがその他のプロセスを従属させるということです。
ステップ4.制約(ボトルネック)の能力を高める
制約を100%活用して、かつ他のプロセスを制約に従属させて、初めて現在の制約の限界能力を知ることができます。そこから改善を図ります。
図面の例だと、図面を書く人を増やしたり、教育を施して時間当たりの図面枚数を増やしたりすることです。
ステップ5.制約(ボトルネック)を解消したらステップ1に戻る
プロセスが連携していて、かつ能力にバラつきがある以上、ひとつの制約が改善されると、必ず他の制約が出てきます。
当初のプロセスで12の能力だったところが、下図のように16になったとすると、次は隣にある14が制約になるのです。
改善の手を緩めずに、1のステップに戻ることで、継続的な改善が可能になります。
TOCで考えるべきマルチタスクの排除
制約を徹底活用する際に重要なことは、マルチタスクの排除です。人はマルチタスク状態で、さまざまな業務を行ったり来たりしていると効率は悪くなる傾向にあります。
たとえば、資料10ページを作成しているときに、
資料1ページ作成 ⇒ 電話 ⇒ 資料2ページ作成 ⇒ メール処理 ⇒資料1ページ作成 ⇒ 同僚から相談
などとやっていると、資料作成は遅々として進んでいきません。
しかし、資料を作る時間を決めて、10ページ作っている間、誰にも邪魔されずに一気に作り込むと、生産性高く短時間で作れるようになるのです。
これは感覚的にわかって頂けるのではないでしょうか。
上記、図面作成の例では、図面を書く人が図面を書く仕事以外はしないということにしましたが、まさにマルチタスクを排除して、一番大事なことに集中してもらうようにするわけです。
もちろん、仕事に悪影響が出ないレベルのマルチタスクであれば問題ないですが、もし、ひとつひとつの業務を集中してできない状態になっているのであれば、マルチタスクは排除が必要です。
マルチタスクを排除して業務を効率化する考え方は以下2つの記事にも記載しています。
TOCを課題解決に適用するための3つのツール・コンセプト
TOCをビジネスの課題解決に活用するために有効な3つのツール(またはコンセプト)を紹介します。
- CRT・FRT
- TOCクラウド
- CCPM
この3つです。
それぞれ詳細を解説していきます。
CRT・FRT
CRTとは、Current Reality Treeの略で、現在の困りごとを洗い出して、それらの因果関係を整理するものです。(ここで出てくる困りごとのことをUDE(ウーディー、Undesirable Effect)といいます。)
以下はいくつかのUDEをつないでCRTにしたものです。
CRTの例
こうしてCRTを可視化することで、どこに困りごとを引き起こしている根本があるのか、すなわち制約(ボトルネック)があるのかが見えてくるようになります。
実際にゴールドラット氏は著書「ザ・ゴール2」の中で以下のように書いています。
もし、いつも火を消す作業に追われているとしたら、周りに問題がたくさんあるように思われるかもしれません。
(中略)
こうした問題は一つひとつ独立した問題ではなく、むしろ原因と結果という強い因果関係で結びついていると考えています。
(中略)
まず最初にシステマティックな方法を用いて、その状況におけるすべての問題を関連づける因果関係を図に表します。この図を現状問題構造ツリー(Current Reality Tree)と呼びます。
出典:ザ・ゴール2
関係者から多くの困りごとを引き出すことで、より精緻なCRTを作成することもできます。
一方で、FRTとは、Future Reality Treeの略で、未来に起こしたい現実を整理したものです。
FRTは、近い将来こうなっていて欲しいという明るい未来を関係者で確認するために作成します。
さきほど書いたCRTの文言を逆にして、全てポジティブに言い換えたものがFRTになります。
FRTの例
この例だと、経営陣が情報を細部にわたって把握できないことで、多くの混乱が招いているので、経営陣が適切な情報を持ち、安心して意思決定できることが、問題解決に近づくことなのだと理解できます。
このようにすることで、一見して制約が見えないような複雑な事象に対しても、制約を特定して集中して手を打つことができるようになるのです。
TOCクラウド(対立解消図)
TOCクラウド(別名:対立解消図)とは、対立する2つの概念の共通目的を見出し、2つの概念を対立から両立へと転換させていく考え方です。
ビジネスの重要な課題解決場面においては、往々にして対立した2つの課題を同時解決する必要性が出てきます。
その際に、TOCクラウドを使って課題を整理することで、対立を両立に転換する方向性を考える助けになります。
TOCクラウドの詳細は、以下の記事に記載しています。
TOCスループット会計
ゴールドラット氏は、従来の会計ルールは、それ自体がビジネスをする上での制約であると看破して、TOC理論を体現した新たな会計ルールを提案しました。
それがTOCスループット会計です。
TOCスループット会計では、伝統的なコスト計算の方法である配賦を否定、企業の目的はスループットを最大限高めることで、そのための制約を取り除くことだとしています。
詳細は、以下の記事をご覧ください。
TOCを活用したプロジェクト・マネジメント手法CCPM
TOCをプロジェクト・マネジメントに活用したものにCCPMという手法があります。
CCPMとはクリティカルチェーン・プロジェクトマネジメントの略で、工程上で最も制約となっている部分(クリティカルチェーン)を重点的にマネジメントして、工程のリードタイムを従来よりも削減していくための考え方です。
CCPMの詳細は、以下の記事に記載しています。
まとめ
以上、TOCの解説でした。
- TOCは、ばらつきとつながりがあるプロセスにおいて、制約(ボトルネック)を特定して、改善を図る方法を理論立てたものである。
- TOCを理解することで、頑張っているのによくならないという状況に陥らないで済むようになる。
- TOCにおいて重要なことは、まず制約を徹底的に活用する方法を考えることである。
- 制約をフル活用できるようになってから、はじめて制約の能力を向上させていく。
- 複雑な事象で、制約がわかりにくい場合は、CRTやFRTを作ることで、その制約を可視化できる。
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