新たなビジネスを立ち上げるときに、当面の目標として掲げられることとしてユニットエコノミクスを成立させることがあります。
この記事では、ユニットエコノミクスと、それに関係する2つの要素生涯顧客価値(LTV) と顧客獲得コスト(CAC)、さらにはブランドとの関係について解説していきます。
マーケティング戦略を定量的に評価する際にも役立つ考え方です。
ユニットエコノミクスとは
ユニットエコノミクスとは、ビジネスの最小単位における収益性のことを示します。
ユニット単位での経済性・収益性が黒字になっていれば、そのビジネスは拡大すればするほどもうかることがわかります。
たとえば、車の販売代理店にとっては車一台が基本ユニットになるでしょうし、飲食店の場合は1店舗が基本ユニットになってくるでしょう。
このユニット単位での収益性がプラスになっていることがわかれば、それをコピーして拡大していくことで黒字が拡大していくことになるので、安心してビジネスを拡大できるようになります。
逆にユニットエコノミクスが成立していないまま、ビジネスを拡大すれば、いつまで経っても黒字化できないビジネスになってしまいます。
企業内の新規事業への投資や、投資家がベンチャー企業に投資をする際の判断基準にもなっています。
ユニットエコノミクスの計算に必要なLTVとCAC
ユニットエコノミクスを考えるときは、LTVとCACが重要になってきます。
LTVとは
LTVとは、Customer Lifetime Valueのことで、日本語では生涯顧客価値と表します。
計算方法として、次のようなものがあります。
LTV = 1回あたり購入金額 × 粗利率 × 1顧客の平均購入回数
LTV = 顧客の年間取引額 × 粗利率 × 顧客の継続年数
LTV = (売上高 – 売上原価)/ 購入者数
LTVには、購入回数や継続年数など時間の概念が入っているので、何年分で計算するかによってユニットエコノミクスの考え方が変わってきます。
そのため、継続年数が2年の場合のLTV、3年の場合のLTVなど、場合分けしてLTVを算出することもあります。
CACとは
CACとは、Customer Acquisition Costのことで、顧客獲得コストと表します。
計算式は次のようになります。
CAC =(営業人員人件費+広告宣伝費)/ 新規顧客数
D2Cビジネスの場合は、以下のような計算方法もあります。
CAC = デジタルマーケティング費用 / 新規顧客獲得数
= デジタルマーケティング費用 / (トラフィック ✕ コンバージョン率)
なお、CACには、次の3つの種類があります。
Paid CAC:広告などでお金を払って獲得した顧客のコスト
ある営業・マーケティング策にかかった費用 / ある営業マーケティング策で新規に獲得できた顧客数
Paid CACは、企業が積極的な広告宣伝投資をして利益を拡大できるかどうかを示す指標になります。
Organic CAC:検索や口コミなどで自然増加した顧客のコスト
自然増加にかかった費用 / 自然増加で獲得できた顧客数
一般的にOrganic CACは、Paid CACよりもはるかに安くなります。
Blended CAC:Paid CACとOrganic CACを足したCAC
総営業・マーケティング費用 / (お金を払って獲得した顧客 + 自然増加した顧客)
Blended CACだけを見ていると、誤った判断をする可能性があるので、Paid CACと分けて確認をする必要があります。
ユニットエコノミクスを考える上で大事な指標
ユニットエコノミクスを考える上で大事な指標は、2つあります。
- LTV/CAC
- CAC/1顧客あたりの月次粗利
それぞれ詳細を解説していきます。
LTV/CAC
1つめは、LTV/CACです。
もし、この比率が1を下回る場合、事業をやればやるだけ赤字になることは明白ですが、LTV/CACが高すぎると、広告宣伝投資が足りてない、つまり顧客獲得の機会を逸していると見ることもできます。
適切なLTV/CACは、ケースバイケースにはなりますが、一般的には3倍~5倍と言われています
LTV / CAC = 3倍~5倍(目安)
なお、コンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーは、こちらのレポートでD2Cビジネスの場合は、LTV / CACは2倍が目安になるとしています。
LTV/CACは、会社が持続的な成長ができるかどうかを示し、マーケティングや販売の施策や費やすべき金額を決定するためのバロメーターにもできます。
実際、こちらの記事では、LTV/CACは、以下の図をもとに製品、エンジニアリング、販売、マーケティングなど、社内のほぼすべてのチームのパフォーマンスを把握するための強力な診断ツールだと書かれています。
https://tomtunguz.com/netsuite-key-metric/を参考に作成
一方で、市場環境によって簡単に変化する指標でもあるので、あくまで目安として捉えることが大事です。
たとえば、新しい競合他社が市場に参入した場合は、LTVが低下し、CACが増加する可能性もありますし、製品やサービスを劇的に改善することで、大きくLTVが増加する可能性もあるからです。
CAC/1顧客あたりの月次売上
2つめは、CAC/1顧客あたりの月次粗利です。
CAC / 1顧客あたりの月次粗利
= CAC / (1顧客あたり月次売上 × 粗利率)
この指標は、顧客獲得コストを何か月分の粗利で回収できるかを示すものです。
こちらも明確なハードルがあるわけではありませんが、一般的には18ヶ月以下で回収することが目安とされています。
CAC / 1顧客あたりの月次粗利 < 18ヶ月 (目安)
このような観点からユニットエコノミクスとその妥当性を明確にすることで、ビジネスにおけるキャッシュフローをより正確に見積もることが可能になります。
そして、一旦ユニットエコノミクスが理想的な状態(LTV/CAC > 3、CAC/月次粗利=18ヶ月)で成立することがわかれば、あとは規模の拡大を目指していくことで、より大きな売上・利益を稼げる、つまり売れば売るほど儲けられる状態になります。
ユニットエコノミクスの計算例
簡単な計算例を1つ挙げてみます。
1顧客あたりの年間売上:10,000円
1顧客あたりの粗利:8,000円
平均継続期間:5年
年間総営業・マーケティングコスト:6,000万円
年間新規顧客獲得数:5,000人
このとき、LTVとCACは次のように計算されます。
LTV = 8,000円 × 5年 = 40,000円
CAC = 6,000万円 ÷ 5,000人 = 12,000円
LTV / CAC
= 40,000円 / 12,000円 = 3.33倍
CAC / 1顧客あたりの月次粗利
= 12,000円 / (8,000円÷12)= 18ヶ月
ユニットエコノミクスを考える上での注意点
ユニットエコノミクスは上述のように競争に勝ち抜くために必要なマーケティング・販売投資をどの程度必要とするのか、その目安が明確になる一方で、運用するにあたっては注意が必要なポイントがあります。
それは、LTVが競争状況や業界動向、顧客の購買行動などの外部環境によって変化してくる可能性があるということです。
たとえば、購入頻度を年4回で見ていたのが、年3回だったとなれば、それだけでLTVは当初予定の75%になってしまいます。
当初の購入頻度を目指すために、たとえば商品の魅力を高めるための追加費用が必要になることも想定されます。
ユニットエコノミクスとブランドの関係
企業ブランドの力は、LTV、CACの双方によい影響を与えます。
ブランド力とLTVの関係
企業ブランドが浸透していると、そのブランドに対して顧客がお金を多く支払ってもよいと考える人が増えるので、同じCACでも1回あたりの購入金額を高めることができます。
また、ブランド力があると粗利の高い商品を売ることができます。
一方で、顧客がそのブランドに愛着を持つことで、顧客が次に買い替えるときに同じブランドを選ぶことになり、結果として一人の顧客が生涯でそのブランドの製品を買う頻度を高めることができます。
実際に計算式で考えると、ブランド知名度は以下のようにLTVに寄与します。
LTV = (1回あたり購入金額 × 粗利率) (UP!) × 1顧客の平均購入回数 (UP!)
1顧客の平均購入回数を高めているブランドを持つ企業といえば、ディズニーランドとマクドナルドでしょう。
ディズニーランドもマクドナルドも、サービスや食事、おまけなどを通じて子供のときから良質な体験ができるような設計になっているので、その子供が大人になったときに自然にそのブランドを受け入れるようになっています。
また、ブランド力がある製品やサービスには、スイッチングコストも働きます。
スイッチングコストの高さもLTVを良化させる要因になります。
ブランド力とCACの関係
一旦ブランドが出来上がると何が起こるでしょうか。一般的に考えて、新規の顧客を獲得するための営業人員は、無名ブランドを売るよりも少なくて済みそうです。
広告宣伝に関してはブランド知名度維持のための継続投資は必要かもしれませんが、少なくとも短期的に見ると、有名ブランドが冠されていれば、追加的に必要となる広告宣伝は少なくて済む可能性もあります。
つまり、ブランド知名度があると次のようなことが起こります。
CAC =(営業人員人件費(DOWN!)+広告宣伝費(DOWN!) )/ 新規顧客数
先ほどのディズニーランドやマクドナルドの例を考えてみましょう。
かつての子供が大人になると、その子供をディズニーランドやマクドナルドに連れていくようになります。
このように、かつて自分が体験した良い思い出を持つ親が、自分の子供にも同じ体験をしてもらおうとする連鎖が生まれるので、結果として新規の顧客獲得コストを大きく下げることができます。
ブランド力があるとユニットエコノミクスを成立させやすい
上記のことから、ブランド知名度が高いということは、何か製品やサービスを新たに販売を始めるときに、そのユニットエコノミクスを成立させやすいことを意味します。
このことをブランド知名度という共有資産を使って、範囲の経済性を活用しているとも表現できます。
言い換えると、ブランド認知が十分ではない会社、たとえばベンチャー企業や、有名企業であっても当該業界でのイメージがない会社などは、ユニットエコノミクスを成立させるのに苦慮することを意味しています。
まとめ
以上、ユニットエコノミクスの解説でした。
- ユニットエコノミクスとは、ビジネスの最小単位における収益性のことを示す。
- ユニットエコノミクスを考えるときは、LTVとCACが重要になる。計算の代表例として「LTV = 1回あたり購入金額 × 粗利率 × 1顧客の平均購入回数」、「CAC =(営業人員人件費+広告宣伝費)/ 新規顧客数」がある。
- CACには、Paid CAC、Organic CAC、Blended CACがある。
- 1つの目安としてLTV/CACは3~5倍程度、CAC/1顧客あたりの月次粗利は18ヶ月以下と考えられている。
- ユニットエコノミクスはブランド力とも関係があり、ブランド力が高ければLTVを高く維持でき、CACを抑えられる。
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