最近、「得意なことを仕事にしよう」、「好きなことでお金を稼ごう」という論調をよく見かけます。
私自身、こうした「好きなこと・得意なことを仕事にする」という論調には同意ですし、サラリーマン時代から、独立した現在まで、基本的に好きなこと・得意なことを軸に仕事をしてきたつもりです。
一方で、この論調には釈然としない部分もありました。
なぜなら、みんなが好きなことに没頭する世の中が、本当に健全になるのかという疑問を持っていたからです。
ところが、最近読んだ経済学の本「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」の中にあった「比較優位の原理」を読んで、この疑問に対する私なりの回答を得られるようになりました。
この記事では、好きなこと・得意なことを仕事にすべき理由を比較優位の原理から解説していきます。
比較優位の原理とは
比較優位の原理について解説していきます。
比較優位の定義
まず言葉の定義については、ウィキペディアより抜粋します。
比較優位(ひかくゆうい、英: comparative advantage)とは、経済学者であったデヴィッド・リカードが提唱した概念で、比較生産費説やリカード理論と呼ばれる学説・理論の柱となる、貿易理論における最も基本的な概念である。
これは、自由貿易において各経済主体が(複数あり得る自身の優位分野の中から)自身の最も優位な分野(より機会費用の少ない、自身の利益・収益性を最大化できる財の生産)に特化・集中することで、それぞれの労働生産性が増大され、互いにより高品質の財やサービスと高い利益・収益を享受・獲得できるようになることを説明する概念である。
ウィキペディアより抜粋
簡単に言うと、みんなが最も得意な分野に集中することで労働生産性が高まり、お互いがメリットを享受できるようになるということです。(ただし、お互いが生み出したものを交換できることが前提になります。)
比較優位を数字で解説
比較優位の定義を読むだけだとわかりにくいと思うので、数字を交えながら解説していきます。
ここでは、説明を単純化するためにA国、B国という2つの国で考えます。産業も単純化するために農業と工業だけで考えてみます。
A国、B国の人口と農業、工業の生産性(1人あたりの生産量)を次のように定義します。
A国 | B国 | |
人口 | 2,000 | 3,000 |
農業 (1人あたり生産量) | 10 | 5 |
工業 (1人あたり生産量) | 10 | 2 |
このとき、人口1人を養うのに農業生産量が3必要だとします。
もし、両国での貿易がないとすると、A国、B国はそれぞれで農業生産をしないといけないので、A国とB国の農業と工業の生産量はそれぞれ次のようになります。
A国 | B国 | |
農業生産量 | 600人*10 = 6,000 | 1,800人*5=9,000 |
工業生産量 | 1,400人*10=14,000 | 1,200人*2=2,400 |
このとき、A国、B国の合計生産量は次のようになります。
農業 = 6,000 + 9,000 = 15,000
工業 = 14,000 + 2,400 = 16,400
もし、ここでA国とB国が自由に貿易できる関係にあるとします。
このとき、B国はより得意な農業に国民全員を従事させると、A国、B国の人口を養える農業生産量に達するので、両国は次のように生産人員を配分するのがベストになります。
A国 | B国 | |
農業生産量 | 0 | 3,000人*5=15,000 |
工業生産量 | 2,000人*10=20,000 | 0 |
このとき、A国、B国の合計生産量は次のようになります。
農業 = 0 + 15,000 = 15,000
工業 = 20,000 + 0 = 20,000
つまり、貿易をする場合としない場合で、工業の生産量が3,600も向上するのです。
これが比較優位の原理です。
この原理だと、お互いに貿易可能であれば、より得意な分野に従事者を集中させるのがよいということがわかります。先ほど書いた定義のとおりです。
好きなこと・得意なことを仕事にすべき理由
さて、タイトルに書いた好きなこと・得意なことを仕事にすべき理由について考えていきます。
比較優位の原理が証明しているから
ここまで書いたように、自由に貿易ができる前提だと、各国は得意分野に集中するのがよいというのが比較優位でした。
これを、人間に当てはめてみるとどうなるでしょうか。
- みんなが自分の好きなや得意なことに集中する
- お互いが足りない部分を補完し合う
- この2つにより集団の生産性を最大化できる
このようになります。
つまり、一人一人が好きなことに没頭することこそが、集団の発展につながるのです。
みんながやらないことも誰かがやるようになるから
さて、ここでひとつの疑問が出てきます。
「みんなが好きなことに没頭したら、集団の中でやるべき仕事が機能しなくなるのではないか?」
これに関しても経済原理から解決策が出てきます。
たとえば、集団の中で絶対必要な仕事があるとすると、必然的にその仕事へのニーズが高まり、高い報酬が期待できるようになります。
言い換えると、どうしてもその仕事が必要なことであれば、好きなことに没頭している人達が、必要な仕事をしてくれる人に高い報酬を払ってでもお願いすることになるのです。
集団の中には、特定の仕事には思い入れはないけど、人の役に立つことが好きとか、お金を儲けるのが好きという人が必ずいて、集団の中で誰もやらない仕事の穴埋めをしてくれるということです。
つまり、その人にとっては、必要な仕事をみんなのためにやること=好きな仕事となっているわけです。
好きなことに集中するのに大事なこと
先ほどの比較優位の原則で大事なことは、自由に貿易ができるという条件でした。
貿易という前提条件がなければ、生産性を最大化することはできません。
これは、人間に当てはめて考えると、どうなるのでしょう。
好きなことに集中するためには、助け合える人をまわりに作っておくことが大事だということを意味になります。
つまり、好きなことを仕事にしていくには、他の誰かと良好な人間関係を保っておく必要があるということです。
好きなことに集中しやすい時代
昔は、所属している集団の物理的な限界があったので、みんなが好きなことをやると集団の形成・維持が難しかったという背景がありました。
しかし、インターネットの登場により、人が物理的な距離を超えて、コミュニケーションしたり、価値の交換をできるようになったので、好きなことに集中しやすい時代になったと言えるでしょう。
私も含めて、昔の感覚・イメージのままだと、「好きなことだけやる」ということには抵抗がありましたが、世界中がインターネットでつながる時代においては、その感覚・イメージは一旦外して考えるべきなのでしょう。
ネット上では、たまにサラリーマンがよいか?フリーランスがよいか?という議論になりますが、それに関しても以下のようにツイートしました。
少し古い本ですが、「日本人がグローバル資本主義を生き抜くための経済学入門」を読了しました
下の図は本書にある「比較優位」の説明、人は得意なことをやって、他人と貿易をすることで豊かになっていく
これを見ていると、サラリーマンかフリーランスかの議論が、いかに無意味かが理解できます pic.twitter.com/9gkoiIDCAl
— セーシン (@n_spirit2004) June 14, 2019
まとめ
以上、好きなこと・得意なことに集中すべき理由でした。
- 比較優位の原理から、人は好きなこと・得意なことに集中することで、個々の生産性が高まる
- 足りない部分を他の人と補完することで、集団全体の生産性も高まる
- 好きなことをやる前提として、集団の中で良好な人間関係を保っておく必要がある
最後に、私が比較優位を学んだ本を紹介します。
この本は比較優位の原理を始めとした、グローバル経済をわかりやすく解説している本です。世界の経済の動きをより深く理解したい方におすすめです。
好きなことを仕事にするための一歩を踏み出すなら、世の中にどのような求人があるかを探すところから始めてはいかがでしょう。
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